君の瞳に映りたくて
お待たせいたしました。
第二部の”攻略対象視点”をお送りいたします。
攻略対象は8人ですが、とりあえずちゃんと出ていている7人分になります。
誰から投稿しようか悩みましたので、とりあえずくじ引きで決めてみました。
1人目は 天清寺 鷹彰 です。
楽しんで頂けたら幸いです。
くそっ!
何度目かも分からない舌打ちをして、俺は人気の少なくなった廊下を歩いていた。特にこの学園は部活動に参加を強制はしていないが、約9割強は部活に入っていて今も運動部の連中の声が遠くから聞こえてきている。
俺が何故こんなにもイラついているかと言えば、1つはまた今期も彼女と同じクラスになれなかったという事だ。
幼稚舎の時はさて置き、いくらクラス数がAクラスから始まりNクラスまでと14クラスあったとしても、小~中等科の9年間で1度も同じクラス又は隣のクラスにもならないと言うのはおかしいだろう!
そして今期も!特に家柄や能力などに分けられることがないと言っても、これはさすがに避けられている ――特にあの兄によって―― と感じずにはいられなかった。
だが、原因となりうることは分かっている。俺が彼女を目の前にすると思っていることとは別の事を口にし、何度も何度も彼女を傷つけたりしたせいなのは良く分かっている。
次こそは、この次こそはと覚悟を決めたとしても、俺は彼女の名前すら面と向かって呼べなく、恥ずかしさが心を覆い隠す。
「・・・魅、魅・・・みい」
面と向かっては呼べないくせに、口にすると暖かな気持ちが胸に広がるなんて、女々しいにも程がある。
さすがに高等科に上がり、変わらねばと俺は何度も魅に話しかけようとしたことがあるさ。だが、そんな時に限って邪魔が入るのだ。
「そうだ、あいつさえ邪魔しなければ・・・あの女さえっ」
俺の苛立ちを増長させるのが・・高等科から外部性として入学した隣のクラスの変な女の存在だ。いくら避けようとも無視しようともどこからともなく現れる・・・某黒虫の様だと何度思ったことだろう。
「たかあきさま、もしもぉグチとかあるのならぁみさがききますぅ~」
「・・・」
「あ、あれぇ?たかあき様???どこいくのぉ???」
「・・・」
―――――――馴れ馴れしく呼ぶな!それに、貴様の存在が目障りだ!!
毎度思うが、俺は良く叫び怒鳴り散らさず居られると思う。
移動教室の際に偶然に遠目だったが目にすることが出来た。そんな彼女を追っていたら、その視線の先に入りこんできやがった馴れ馴れしくも無礼な女。
「あんなぁ、たかびしゃなぁ女とぉムリヤリ婚約させられてたいへん~!みさだったらそんなことぜぇっったいできなぁ~い!」
「・・・」
「みさだったらたかあき様のことぉ~ちゃぁ~んと分かってるよ?めいわくかんがえずにぃ、人を追いかけまわすってぇ・・・こわぁい」
――――――――無理矢理?あいつはオレが心から望んだ女だ!貴様に何がわかると言うんだ・・・それに、ストーカーの様な女とは貴様の事だろう!
心は怒りで煮えくり返りそうなのに、頭の隅で聞こえる“この子の言葉通りだ”“この子こそ見守ってあげるべきだ”と不愉快な声がより一層この女への嫌悪感を抱かせる。
唯一と言ってもいいほど斎賀魅と会える事 ――遠くから眺めるだけが大半だが―― が出来る時間が学園にいるときだけなのに、丁度彼女を見かけた時に嫌がらせの様に現れては邪魔をする女、柿本みさ・・だったか?
「今日こそは・・おい、魅!・・いや、違う違ういつもと一緒だ。あ~・・“魅、週末少し時間をくれないか・・今までの事は、悪かった”か?“これから、婚約者としてもう少し分かりあいたいんだ!”の方がいいだろうか・・?」
邪魔されるのも声を掛けられるのも鬱陶しく、最近ではあの女が現れそうな気配を感じられるようになってしまっていた時だった。
「何と声を掛ければ・・・あ、みい――――――ちっ、またか」
渡り廊下に差し掛かった辺りで近くを歩いている魅の姿を見つけ、今日こそはきちんと話をしようと思い追いかけようとした。だがしかし、その彼女からそう離れていない所にいるあの女の姿もみつけてしまい俺はとっさに近くの教室に入った。
「―――ぁ!お兄様!もう、聞いてますの?!」
人気のない廊下に聞こえた彼女の声と2人ほどの足音。彼女の言葉を聞く限り、彼女の兄の斎賀魁だろう。
「え・・あ、ごめんごめん、勿論聞いているよ。僕のみぃ」
俺のいる教室を少し通り過ぎた次の教室の中ごろだろうか、漸く足を止めた魁の声が聞こえていた。
「嘘よ・・さっきから声かけいてたのに、兄様無視していたじゃない。むぅ」
「考え事してて・・・あぁ、ごめんよ僕のみぃ。そんな悲しそうな顔をしないで、胸がえぐられたみたいに痛くなってしまったよ」
そっと教室内から扉を開けて外を窺うと、中庭に面している窓の近くに魅が俺の方に背を向けて立っていた。
思わず魅に声を掛けそうになってしまったが、その近くに居るのは・・・あの切れ者の爺様をも言いくるめた腹黒紳士。
「う?―――・・ひゃだ、ひゃめてほ、いぃさはぁ」
「ぷっ、クスクスクス。もう、僕のみぃはどんな顔でもかわいいなぁ」
「兄様、頬をつぶすなんて・・ひどい」
「ごめんごめん。膨れたみぃもかわいいけど・・僕は笑顔のみぃが一番好きなんだ」
「兄様・・もぅ」
傍から見て居て羨まし・・・―――魁は魅の頬を両手ではさみ少し屈んで彼女の額に自分の額を付けて2人で笑い合っていた。兄と分かっていても腹立たしく感じるあの距離感に、俺はただ拳を握りしめて耐えるだけ。
何故あの位置に居るのが婚約者の位置に居る俺じゃないんだ!!
「それより、どうしたんだい?」と、魅の頭を撫でながら首を傾げる魁に、魅も少し言いにくそうに視線を辺りに送って再び魁を見上げた。
「兄様は・・あの柿本美咲、さんの事どう思ってるの?」
「え?」
彼女の口からあの女の事が出るとは俺も魁も予想だにしていなく、本当にあの魁にしては珍しくぽかんとした顔をしている。多分俺も同じ顔をしていたに違いない。
「だって兄様さっき柿本さんの事じっと見て居たじゃない。最近、見てるじゃない?昂兄さまだってそう、たまに話しかけてもぼーっとしているんだもの・・・好き、なの?」
「あぁ、誤解だよ僕のみぃ!」
ここの位置からだと魅の後頭部しか見えないが、良く磨かれた窓ガラスに映る横顔はとても悲しそうに歪んでいる。その為か、いつも笑顔の魁には珍しく驚愕に目を見開いてから少し慌てたように魅の肩を掴み視線を合わす。
「確かにあの子を見て居たけど、問題行動が多いようなことを連絡受けたからね」
「・・・昂兄さまも?」
「勿論そうだよ!みぃにだけは誤解されたくないよ!」
「なんて不名誉なんだろう、とても悲しいよ」と泣きそうな顔をしている魁に珍しい物を見たと思い逆に驚いた。
あの兄妹のシスコンブラコンは学園を留まらず有名ではあるし、目下一番のライバルは斎賀魁だと魅を狙うものは全て思っているのは周知の事実。俺の爺様ですら昔から俺にそう言い聞かせていたくらいだ。
「ただ、彼女がよく嫡子や人気のある男性を侍らせているって。耳にしたから心配で・・」
「僕や昂柳がそんな尻軽な女に騙されるわけがないだろう?」
「えぇ・・でも、彼女は可愛らしく魅力的だし・・三宮会長様も椎名様も彼女の取り巻きになってしまっていて、驚いたの」
「馬鹿な!僕のみぃの方が愛らしく魅力的に決まっているだろう?!」と叫んだ魁に、俺は思わず同意してしまったが、さらなる魅の言葉で俺は――――衝撃を受けたんだ。
「よかった、兄様達は心配いらないのね・・・でも、あの寡黙な里笹様や“天清寺”様まで最近柿本さんと仲が良い聞いたわ。あの天清寺様までよ」
+++
あれから、当初こそは抵抗があったし色々と我が儘を言って甘えてくる美咲の事を鬱陶しくも思ったが、そんなことは些細な事だと思えるくらいになってきた。
率直に言えば、俺は美咲を利用している。
あの後、また話しかけてきやがった美咲に苛々しながらも周りを窺うように見回してみれば、こちらを見て居る魅の姿を見つけた。そう、魅は俺を見て居る・・・美咲といる俺を気にしている?
「――――――ねぇ?たかあきさまぁ?」
「・・・・あぁ、そうだな」
「!・・きゃぁぁ~~!!」
禄に聞いてはいなかったが、美咲の言葉に少し微笑んで同意してやれば美咲は鬱陶しいほどの歓喜の声を上げながら俺の腰辺りに抱きついてきた。
正直気持ち悪くて鳥肌が立ったが、顰めそうになる顔を何とかセーブして笑顔を保ったまま顔を上げて先ほどまで魅が居た所をそっと見る。
「!」
彼女はまだいた。しかも、俺の行動が信じられないというように驚いた表情をして・・だ。
何とも思いあがった思考だと思うが、この時は美咲の側に居れば魅は俺の事を見てくれると言う思いしかなかった。美咲が持ってきたお菓子も、もしも魅がくれたなら・・そんな行動が出ていたと思う。
魅もお菓子作りが趣味だったはず。そして、頬を染めて自信なさげに魁や昂柳・・・果ては響にまで渡しているのを、何度悔しく思って眺めて居たか。
「たかあきさまぁ、コレみさが作ったのぉ~。自信作なのよぉ。食べてぇ~」
『鷹彰様・・私が作ったお菓子です。お口に合えばいいのですが・・』
「あぁ、ありがとう。君が作った物なら・・・嬉しい」
自信満々に綺麗にラッピングされたものを手渡してくる美咲なんかに魅を重ねるなんてどうかしていると思うが、それでも・・それほどまでに、俺は魅の事を考えていたんだろう。
今思えばこの時に、何の勘違いをしていたんだ!と、そんな俺を殴りたくてたまらない。確かに、これまでと違って、美咲の側にいると、“俺が魅を”ではなく“魅が俺を”見てくれると気が付いてしまったからだとは思う。
だが、何を思って俺は美咲なんかの側に居続けて、魅の行動を見る事を選んでしまったのだろう。確かに美咲は可愛らしい容姿はしていたし、小動物のようで庇護欲を擽られるように思う時もあったが、俺にとっての女は魅だけだった。
もっと早く、素直になっていれば・あの時さっさと話しかけていれば・天邪鬼の様に本心と別の事を口にさえしていなければ・・・。
もしもの話なんて、今更後悔したって遅い事は分かっている。
天から地底にまで落ちた俺は、何とか少しだが這い上がる事には成功した。
そして、今日――――――俺の目の前にいるのは、白いドレスに身を包んだ美しい彼女の姿・・。
お付き合いいただきましてありがとうございます。
1日1人分で調整出来次第投稿していこうと思います。
なので、今日から1週間かけて7人分ですね。
よろしければお付き合いくださいませ。