心の赴くままに
お、お待たせいたしました。
まずは鷹彰視点が何とか出来ましたので投稿いたします。
中々納得いくものが出来ずに本当に何度か1から書き直しました・・。
取りあえず、断罪その後と鷹彰がいつから魅の事を好きだったのかに重点を置いております。
「まぁ、それは素敵ですわ。望みがかなってよかったですね、天清寺様。だってあなたは家ではなく愛を取ったのですもの!心から祝福いたしますわ!」
俺の目の前でとても綺麗な笑みを浮かべているのは、幼いころ決められた俺の婚約者である彼女。
サイドから分けられた前髪。そこから覗く少し吊り上った瞳に、思わず目が引き寄せられる桜色の艶やかな唇を持つ凛々しく美しい斎賀 魅。
―――・・あぁ、綺麗だ。
滅多に見られない彼女の微笑に、自分でも顔に熱が集中して赤くなっただろうことが分かるが・・・心の中は今起きた状況であり得ないくらいに冷えている。
言葉もないと言うのはこの事なのかと唖然と思う反面、俺が焦がれてやまなかった彼女は俺が向けて欲しかったあの顔を彼女の兄に向け、そして名家のご令嬢共々彼女の兄と共に去っていく姿を見つめる事しかできなかった。
―――待って欲しい。話がしたい!
そう呼び止められるだけの、度胸があればまた変わったのだろうか。未練がましく彼女の後姿を見つめるしかなかった俺の耳に、耳障りな甲高いがなり声が入ってきた。
「な、な、なん・・なんなのよ!!待ちなさいよ、私はヒロインなのよ!いったいどういう事よ!!」
“豹変” そんな言葉がしっくりくるだろうか。“小動物の様”で“守ってあげたくなる”そんな思いで側に居た少女を、何故か俺はただ冷めた気持ちしか持てなかった。
「み、みさちゃん・・・お、落ち着こうよ。ね?」
「あんたは黙ってなさいよ!この役立たず!!」
「み、みさちゃん?!」
「美咲、い・・一体どうしたんだっ」
それに慌てたのは5人いた俺らの中で2人だけ。
混乱したままの頭の中で、俺らは最近行動を共にしていた美咲の事をまるで他人事のように見ていた。
「うるさいうるさいうるさぁーーーい!!こんなストーリー認めないわ!リセットしてやる!どこよ、リセットボタンはどこよ!私の思い通りにならない世界なんていらないわ!!」
こいつはなんでこんなに醜いのだ?
何故俺は彼女と正反対なこんな女の側にいる事に満足していたんだ?
何故、明斗と伏見教師はこんな女のご機嫌取りなどを必死でやっているんだ?
何故。
何故・・何故?
――――・・まるで分らない。
「何故だ・・これは一体どういう事だ」
「・・・分からない、何なんだ」
「・・・」
呟いた俺の言葉に唖然としながらそう返したのは元会長の晴久。その隣には俺と同じくあのみさ・・いや、柿本をまるで無関心な他人を見るような目で見ている里笹がいる。
「3人って言うのは予想外に多いね・・・でも、今頃目が覚めても遅いよ?」
「それこそ後の祭り。今さらだろう」
昇降口の方へ少しずつ移動していたのか、喚き散らすあの女の声は遠ざかっているが耳障りなことは変わりない。
校門近くにぽつんと立っていた俺たち3人は背後から聞こえた心底呆れた声が聞こえた。その声に俺たちがゆっくりと振り返ると、そこには俺の従弟の響と風紀委員長の昂柳がいた。
「ひび・・き?」
「目が覚めるのが遅いよ、タカ・・・何でもう少し早くっ」
「響」
「・・何でもないです、伏見先輩」
悲しそうな目で俺を見る響の言葉を遮り、昂柳は無感情なその表情を崩すことなく俺たち3人をじっと見ている。
「これから俺が伝える言葉は、各家のご当主から直々に理事長あてに送られてきたもので、すべてを何故か俺に託されましたので伝えます。これを伝えるのは勿論貴方方の“目が覚めた”からこそ」
あからさまに面倒くさいと言わんばかりのその顔に、先ほどの衝撃以上の衝撃が俺たちを襲う。
「三宮先輩ですが―――」
そう淡々と話しだした昂柳の言葉の衝撃は計り知れなかった。それでも昂柳の読み上げる言葉では多大なる温情がこれでも掛けられているらしい。温情さえなかった場合は一体どうなっていたかなど、考えるだけで恐ろしいというものだ。
三宮家は晴久の持つ後継者と言うすべてを剥奪し、もはや一般家庭と変わらない分家へ養子に出した上で、弟で現会長の冬弥が後継者となり長男とされたらしい。
里笹家ではすでに将彦をメディアにも紹介してしまった為、病気療養と言う名の海外追放。
そして、俺は――――・・。
***
「にーちゃまぁ」
兄を呼ぶ声とふぇぇ~んとどこからか女の子だろう泣き声が聞こえて、俺はふと黙々と動かしていたその足を止めた。
きょろきょろとあたりを見渡すと、庭の隅の方で鮮やかな赤色の着物が揺れている。
「おい、どうかしたのか?」
確か4歳の時、俺の祖父が主催する年に一度の大きな春の宴だった。4歳と言っても周りの大人たちは天清寺家嫡男と言う立場の俺に、大の大人でも頭を下げるのでそのころから天狗になっていたのは、言わずもがな。
普段なら無視する面倒なことも、家の庭を解放しての宴の為にどこに行っても騒がしく俺は苛々して八つ当たりのつもりで声を掛けたのは言うまでもない。
「ぅえ・・」
だが、声を掛けられたことで顔を上げたその少女を見た瞬間、俺は言葉もなく魅入ってしまった。
転んで汚してしまっただろう着物に、木に引っ掛かってしまったのか少し乱れた髪と泣きはらしたような真っ赤な瞳が痛々しく思ったが、色白の肌に赤色の着物と黒い髪が良く生えて生まれて初めて他人に興味を持った。
こんなに可愛らしい子がこの世にいるモノなのか、と。
「・・・なにないてるんだ?」
「ぅっ」
同い年の従弟の響は覗き、近い年齢でもそれ以外でも俺が他人に興味を持ったのも自分から話しかけたのも初めてだった。
「はなおがきれたのか?オレのをかしてやる・・つかまれ、かいじょうにもどるぞ」
「ぁ・・・うん、ありがと」
俺は袴が汚れるのも気にせずにその場に膝をつき、鼻緒の切れた綺麗な漆塗りの下駄を脱がせて俺の下駄を履かせてやった。ぶっきらぼうに手を差し出すと、瞳には涙がたまっていたがふわりと笑った彼女の表情に顔が熱くなった。
ビクビクと脅えた様な表情で俺を見上げてくるその少女こそ斎賀 魅であり、それが俺とのファーストコンタクトで、俺の一目ぼれした瞬間でもあった。
それからの事を俺はいまいちよく覚えてないが、俺が魅の手を引いて会場に現れたことにより、驚いた祖父が彼女を俺の婚約者とするべく動いたと言う話だった。
「鷹彰!おぉ、響もおったか!丁度良い、付いてこい」
「なに、じいさま」
「じぃさまどうしたの?」
ある日偶然遊びに来ていた響と部屋で遊んでいた俺は、帰っていた祖父に慌ただしく本邸の奥屋敷に呼び出された。
響の家でもある天寺家は天清寺家の第二分家でもあり、俺と年の近いのは響以外にもいたのだが、分家筋全てを合わしても俺と同様に祖父に気に入られた上で能力を認められて将来を期待されているのは響だけだった。
「2人共見ろ。ようやっと話しが着いた、この斎賀家の令嬢が天清寺家の“後継者の嫁”だ。今の段階でこの子以上の婚約者にふさわしい令嬢はおらんぞ」
胡坐をかいて坐っている祖父の左右の膝に俺と響きを座らせて、祖父は後ろから抱き込むようにして写真を見せてくる。祖父はその年代の中では体格もよく背も高い為、良く怖がられているし厳格だとよく言われるが、俺たちにとっては優しく尊敬できる人物だった。
「わぁ、じーさまこの子かわい~ね」
「おぉ、響はこの子の事気に入ったのか?ほぉかほぉか」
無邪気に写真の中の少女を褒める響に祖父は満足そうに響の頭を撫でている。
そう言って見せられた写真の中で、あの春の宴の中で微笑んだ少女がまた無邪気な笑顔で笑っていた。
俺は写真の中の彼女に見惚れていた。あの日からもう一度会いたくてたまらなかった彼女に。
「よかったね、タカ。こんなにかわいい子がこんやくしゃだって」
その為、響が無邪気に俺に話を振った時に思わずビクッとしてしまい。その動揺を悟られたくなくってついつい悪態をついてしまう。
「ま、まだこーほだろ。かわいいとかねーよ、べつにふつーだろ!それにおまえだってこうほじゃないか」
「ん~ん、ぼくはタカのみぎうでになるからちがうよぉ?」
「はっはっは、ほぉか!響は鷹彰の補佐がいいのか!」
俺たち二人の頭を撫でながら祖父がそれは愉快そうに笑っていた。
それに、このころの俺は自惚れじゃないが幼いころから両親や祖父母に連れて行かれるパーティーなどでは他家の令嬢に良く囲まれていたし、言われる言葉もいつも同じだった。
「じーさま、てんしょうじけにふさわしいよめはオレがみつけてやるよ!」
「おぉ、頼もしい事を言うじゃないか。目を養えよ、鷹彰」
「もちろんだ」
確かに響はいつも1歩引いて俺を立てるし、俺は少し・・いや、大いに天狗になっていたとは思う。
それに、照れ隠しだったとはいえ何故俺はあんな啖呵を切ってしまったのかと、今思うと黒歴史と言うやつだろう。
そして、あの言葉と態度がずっと続いてしまった為に、俺は素直になるという事がただの一度も出来なくなった。
調子に乗っていたのは俺の方だ。彼女が婚約者と聞いて、本当は嬉しかった。またあの笑顔を見たくてたまらなかった。
一度でも婚約者と発表されれば、よっぽどのことがない限り破棄などできないし、天清寺家から申し込まれた縁談を斎賀家から断る事なんてないに等しい。
暖かな春の日差しの中でふわりと微笑んだ彼女の事がずっとずっと脳裏に焼き付いていて、また見たいとずっと俺の隣で笑っていてほしいと願うようになっていた。
だけど・・。
「お前がオレのこんやくしゃか?ちょーしにのるなよ、オレはお前ごときがオレの横に立つなんてみとめねぇからな」
素直になれない俺は彼女と顔を併せれば悪態ばかり。始めこそ彼女の方から歩み寄ってくれようとしていたにもかかわらず、俺の口から出てくるのは本心とは全くの逆の言葉ばかり。
本当は、魅と呼んでその手を取りたかったのに、なんのプライドだったのかわからない。あの女の言葉じゃないけれど、リセットできる者ならやり直したいに決まっている。
そうしたら間違うものか!
***
「先輩、自分に言わせてください」
「わかった。任せよう」
響の声にハッとして顔を上げると、最近ではまともに顔を合わせなくなって口すらきいていなかった響が真剣な顔をして俺の前に立っていた。
まるで自分の半身の様に、時に兄弟時に親友として育った響のそんな顔なんか・・・俺は知らない。
俺たちの道は、一体どこで違ってしまったのだろう。
「爺様の決定だよ、タカ」
そう言って響が昂柳から受け取った紙に見えたサインは―――・・間違いなく爺様の物。
俺の隣には青い顔をした晴久と、真っ白になって放心している里笹の姿がある。重くなる雰囲気に、知らず俺はその手を握りしめた。
「“天清寺家の次期当主は響を据える。鷹彰を分家である寺内家の養子とし、天寺家には第一分家の次男である宰を据えて、響の補佐とする。”」
響がぎりっと歯を食いしばるのがわかった。響が俺に幻滅しているだろうことは言われずとも分かる。俺は、何を言われても・・・どんな処罰でもただ受け入れるしかないんだ。
「“鷹彰、お前はわしに言ったな。天清寺家にふさわしい者を選ぶと、それがこの結果だ。わしはお前を過大評価していたらしい”」
一言一言爺様の言葉を継げる響に向ける顔が分からずに俺はただ俯く。
反論も、ない。
ただ、己自身の愚かさを痛感しただけだ。
「“金輪際、天清寺は響に名乗らせる”・・・タカ、爺様は」
「いい、分かっている」
「・・・タカ」
「すまない・・響」
それでも、それに気が付いた俺たちはまだましかもしれない。
「なぁ、昂柳」
「・・・なんでしょう、先輩」
俯いたままの俺の視界の端に、青い顔をしたままだが晴久が恐る恐る口を開いた。
「明斗はどうなる?大稀は?」
「・・・柿本美咲は?と聞かなかっただけ、目が覚めている証ですね」
あからさまにハァっとため息をつき、昂柳は一層冷めた目をして昇降口を睨みつけている。
「今朝の新聞をご覧になっていれば椎名家が没落したの知っているはずですよね。伏見先生は教師免許剥奪の上一族から抹消でしょうか?我が学園に変な黒歴史は必要ありませんから。あぁ、通う意思があるのなら卒業まで通学してくる分にはこちらは拒みませんよ。響、戻るぞ」
「あ、はい」
そう言って、俺らの事を気にしてチラチラ振り返っている響を引き連れ、昂柳は校舎の中に入って行った。
残された俺らはただ無言で立ち尽くすしかない。遠くで鐘の音が聞こえてはいるが、気を抜くと崩れ落ちそうになる足元に、俺たちはその場からしばらく動けなかった。
多分、本当に俺たちの処分はまだ軽い。
後は自分自身が努力さえすれば信頼を得てのし上がることだってできるはずだ。さもなければ、分家と言えども血縁関係のある家に養子にと言う話もないはずだ。
その事に気が付いたと言うだけでも、俺たちは本当に救いがあるのだろう。
お読みくださりありがとうございます。
鷹彰と響は幼少時とても仲良しです。それこそ双子や親友のように、お互いがお互いを支えて頼っている存在のように。
そしてゲームに添って言えば、鷹彰と比べられることにより響は自分自身の存在が影という事と比べ続けられることに絶望し性格が歪んでいく。因みに、鷹彰と魅が春の宴で出会うこともなかった。
じい様の「ほぉか」=「そうか」という意味です。よく口にするんですけどね、言葉にするのはわかりにくいですよね。「ほぉか」や「ほっか」は自分の住む地域の方言なんです。
――という、裏設定。蛇足かなとは思いますが書いちゃいます。
えっと・・これで、大丈夫でしょうか?本当にいつも以上に自信がないです・・。
感想や誤字脱字報告は大歓迎です!!
が・・・凹みますので批判は遠慮願います<(_ _)>