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2014//5/25 一部変更
2日午前2時ごろ、K市のスーパーマーケット「センゴクほんのう店」から火が出ていると、近隣住民からの119番通報があった。約1時間後に鎮火したが、事務所や倉庫の一部が焼けた。同市で発生している連続不審火との関連も含め、警察は慎重に捜査を進めている。
また、当時店内にいたと思われる男性従業員(26)の行方が分からなくなっており、捜索が行われている。
◆ ◆ ◆
――どうか、この世界を救って――
白いシャツにネクタイ、その上に『センゴク』と大きく書かれたエプロン。
誰もが呆然と見つめる先に、そんな恰好で誰よりも呆然とする信善の姿があった。
――ここは一体どこだ?
高い天井に、広々とした空間。大きなガラス窓からは燦々と陽光が降り注ぎ、純白の床に映える深紅の絨毯が、中央奥に据えられた豪華な椅子へとまっすぐと伸びている。
まるで謁見の間のようだ、と信善は思った。
それも、ファンタジー映画の。
現に玉座と思われる椅子には、それに見合う立派な服を纏った壮年の男が座っており、その手前には片膝をつく長髪の男と小柄な男。そして揃いの衣装の騎士たちが、身の丈ほどもある槍を持ち、両側の壁に沿って立ち並んでいた。
だが、ここがどこだか分かっても仕方ない。どうして自分は今ここにいるのか、それこそが信善には重要だった。
何故なら、信善は今の今まで炎の中にいたはずなのだから。
閉店後、事務所で一人残業をしていて、いつの間にかそのまま眠ってしまっていて、気が付いたときには辺りは火の海と化していて、もうダメだと思った瞬間、どこかから声が聞こえて――
と、そこで信善の思考は止められた。
「――し、侵入者だっ!」
思い出したように騎士の一人が叫んだ。そしてそれをきっかけに、時が一気に流れ出す。
ある者は中央の三人を守るための盾となり、ある者は侵入者を包囲する矛となった。それは日頃の訓練が目に浮かぶような、見事な連携だった。
しかし、そんな感慨に浸る余裕など、当然ながら信善にはない。鋭く光るいくつもの切っ先が、今にも首を刎ねんとばかりに自分を取り囲んでいるのだから。
「ち、違う! 違います! 怪しい者じゃないんです!」
どこからやってきたのか自分でも分からないが、明らかに侵入者ではあるし、彼らにとってみれば極めて怪しい者でもある。だけど、信善にはそう言うしかなかった。目の前に突き付けられた刃と敵意が、とても偽物には見えなかったから。
それに、辛うじて身元を証明するものならある。
「オノダです! オノダと申します! スーパーセンゴクほんのう店、デイリー担当、織ノ田信善です!」
ほら、と胸ポケットから取り出した名刺を見せつける信善。
話し合うことができれば、互いの疑問や混乱を解決できるかもしれない。少なからず、ここでこうやって争う必要などないはずだ。そしてそのためには、まず場を落ち着かせること。
そう考えて――実際は、自身の安全確保が第一だったけれど――名乗った信善だったが、相手の反応はまるで予想していないものだった。
「……ノブ、だと?」
誰かの口から、疑問符が零れる。するとそれは、瞬く間に周囲に広がっていった。
「ノブ?」「ノブだって?」
「ノブ様?」「まさか、あのノブ様?」
「いや、でもノブ様は」「だけど今、ノブって」
言葉と共に感染していく動揺。
直前にあれほどの連携を見せていた騎士たちまでもが、その渦に巻き込まれているのだから、只事ではないのは明白だ。この場で最も混乱していたであろう信善でさえ、そう思うのだから間違いない。
だが次の瞬間、そんな空気は一気に鎮まった。
「……ノブ様だ。ノブ様が、炎の中より再び……」
重厚でありながらも、よく通る声。それと共に、玉座の男が立ち上がったのだ。
そして全員の視線を一身に浴びる中、彼は勝鬨の如くその名を口にした。
「――織田信長様が、お戻りになられたのだ!」
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【あとがき的メモ】
久々の三人称。初のがっつり異世界。
異世界感の表現って、難しいね。