3章の23
夢とほとんど変わらない空間だった。
違う所はと言えば、建物全体が途方も無い年月を刻んだ所と、床で招かれざる客、ピクシーの少女が泡を吹いている所。
それから、少年の姿だった死体が骨に変わってしまった所。
……そう言えば、アリスの剣は?
「鈴音」
「はい」
「お前、さっき『エルに斬りかかった』って言ったよな。もしかして、エルの翼でできた剣を使ったんじゃないか?」
こちらを見上げた鈴音は驚いた顔をしていた。
「どうして剣の正体を知ってるんですか?」
「そう言えばお前こそ、何で剣がエルの翼で作られたって知ってるんだ。エルに聞いたのか? それとも、チェシーがお前にもワンダーワーカーの悪夢を見せたのか?」
「チェシー? アリスの悪夢?」
顔に疑問符を点滅させる。
「私は勝手に想像してただけなんですけど、剣の正体は本当なんですか?」
頷くアリスト。そして首をひねる鈴音をひとまず体から離し、立ち上がった。
「説明はちゃんとする。それで、件の剣は……」
「確かこの辺りに放り投げたんですけど」
鈴音は周りをきょろきょろ見回したが、それらしきものは無い。
「あれっ? ……あ!」
何かに気付いて吃驚する。
「もしかして、エルがどこかに持って行ったのかもしれない!」
「エル……エルはどこに行ったんだ」
アリストは眉をひそめた。
「そもそもエルは、お前から俺のペンデュラムを取り返すって出て行ったんだ」
「そう言えばペンデュラムも無いです」
二人は顔を見合わせた。
「剣と、ダウズのペンデュラムを持って一人で……」
「も、もしかしてエル、自分の手で魔法使いを全滅させる気なんじゃ……」
同時に息を呑んだ。
ばっ、と鈴音が立ち上がる。
「ダメです! 早く止めないと!」
「ああ。早く追いかけるぞ!」
二人は先を争って小屋の外へと出た。
「私たちの嘘、バレたんですね」
「ああ……もっとも、薄々気づいていた節もあったけれどな」
鈴音が小屋の向こうの斜面を見上げる。
「こっちです。弱いですけど、イーゼルの気配がします」
「タリアの丘か」
奇妙な胸騒ぎがした。
七百年前、ワンダーワーカーが天使の羽を撒いた丘。まるでその史実を辿るように、エルは剣を手にタリアの丘へと登った。
やっぱり、七百年越しの復讐を遂げるつもりなのか? 最後に残った天使としての役割を、時代を違えた今に果たすつもりなのか?
過去、この丘から世界は守られた。
時が下った今、今度はこの丘から悪夢がよみがえるのか。
「アリスト様っ、早く行きますよ!」
走り始める鈴音。振り返って急かす表情は焦燥に満ちている。
が、しかし、
「っ」
がくりと鈴音の体が崩れた。




