3章の18
海から吹き付ける異国の風。その中にぽつりと佇んでいた淋しげな背中。
驚きながらこちらを振り返り、そして笑ってくれた両の瞳。
二つの目は、たまらなく澄んでいた。
――ねぇ、この風はどこから来たのかなぁ。
「壊しちゃダメ」
はっ、と鈴音は我に返った。
すぐ眼下から聞こえた声。そこにはエルが座り込んでいた。
風が運んだ何かを、手を伸ばして掴み取った所だった。
それを力無い仕草で掲げた。
「アリストの目、壊しちゃダメ」
澄んだ瞳が、こちらを見つめた。
「……ぁ」
十字架の真ん中に埋め込まれた水晶球。問いかけに正しい道を示してくれる千里眼。
そして、彼の目。
願うべき今を気づかせてくれた、彼の右の目。
「アリスト様」
アリスト様。
私はあの人の願いを叶えるんじゃなかったの? 一緒に笑うんじゃなかったの?
またあの海辺の夕陽の中で、あの日みたいに笑うんじゃなかったの――?
白骨の剣が滑り落ちる。
「何やってんのよ!」
甲高い叫び声が上がった。
「さっさと殺してよ! その天使にとどめを刺してっ!」
続けざまに笑い声。
耳の中で暴れまわる、頭の中を軋ませて仕方が無い笑い声。
鈴音は歯を食いしばった。
「……リンネ」
エルが陽色の瞳をしばたたく。
「殺して! 殺して!」
からり、と床に落ちていた剣が音を立てた。鈴音は再び、その手に刃を握った。
「……」
「さあ、とどめを刺すのよ!」
「リンネ」
「殺せ!」
「リンネ」
「殺せぇっ!」
「――っ!」
右腕を、突き出した。
ずしっ、と重たい感触が返ってくる。
鈴音は食いしばった歯の間から、短く息を漏らした。




