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3章の17

 上空から鈴音を見下ろしたエルは、初めてその瞳を揺らがせた。

「……なんで、リンネ」

 きゃらきゃらきゃらきゃら

 エルの目が、壁際で笑う少女を捉える。

「ピクシー……」

「あはははは! いいわ! いいザマよ!」

 少女は腹を抱えて笑った。

「七百年前の罪を忘れたとは言わせないわ、天使! ここで報いを受けなさいよ。セルトのマルベル全てからの復讐よ!」

「リンネをはなして」

「はぁ? バッカじゃないの? 誰がアンタの言う事聞くって言うのよ」

 ふんっ、と少女は鼻を鳴らす。

「それにね、この人間は元からこうなの。アタシはこいつ自身が抑えつけてた衝動を解放してあげただけよ!」

 エルの瞳が鈴音を向く。背の骨をしならせると、石の床にふわりと着地した。

 再び、鈴音はエルと対峙した。

 半目気味の幼い顔。ほんの昨日までは可愛らしいと思っていた天使の少女の顔。

 今となってはマルベルへの憎悪と同じ感情しか浮かばなかった。

 そう、憎かった。忌々しかった。

 目の前にいる異形が、たまらなく憎く忌々しかった。

「……人と異なる者は即ち悪である」

 トーアの教えが唇からこぼれた。

「異形はすべからく狩り尽くすべし」

 地を蹴り上げた。

 低くした体が滑るように進む。狭い視界の中でエルが息を呑んだのを視認する。

 もう遅い。

 止まらない。止められない。

 やめない。

 右腕を振った。エルの細い喉元を白い刃がかすめていく。

 血液は散らなかった。すかさず鈴音は振り切った刃を下段から振り上げる。

 その時、目の前で風が弾けた。

「っ!」

 炸裂した風圧が鈴音の体を突き飛ばす。

 風の礫を食らい、意識を一瞬失いかける。何とか持ち堪え、揺らいだ足を踏みしめた。

 骨色の剣を握り直し、エルへと迫る。

「殺して! 天使も魔法使いも皆殺しにして!」

 衝動を駆り立てる声。

 迫る鈴音を見たエルは、またも宙に体を浮かばせた。

 しかしほんのわずか浮かんだ所で、エルの体はがくりと傾いた。

 少女の顔に狼狽が浮かぶ。そこへ鈴音は刃を薙いだ。

 ざっ

 切れたのは少女の短い髪だった。小さく弾けた風が寸前で刃の軌道を曲げていた。

「……イーゼルが」

 エルが胸を押さえた。彼女の身体から発せられるイーゼルは、今や消えかけるほどに薄くなっていた。

 まだ目覚めたばかりで安定していない上に、立て続けに風を起こしたからだろう。これ以上魔法を使えば、いつ枯渇してしまうかも分からなかった。

 今の鈴音はそれを好機と確信した。

 ふ、と口元に笑みが浮かんだ。

 死を前にのたうつ異形を見下ろし、浮かべていた笑みと感情が鮮やかによみがえった。

 そう、これこそがトーアの神術師の感情。何にも変えられない、冷たくたまらない快感。

 白い刃を、鈴音は構えた。

「……リンネ」

 エルはつらそうに息を吐くと、ついにぺたりと床に落ちた。

 鈴音はゆっくりと近づくと、

「やっと、殺せる」

 笑み混じりにそう呟いた。

「死ね! 化け物が!」

 刃が空気を鳴らした。

 ――――鈴音。

 澄んだ光がきらめいた。

「っ――」

 ふわりと風が、鈴音の着物の袖を揺らした。

 あの日の風。

 意識の中へ、記憶が流れ込んできた。

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