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3章の16

 白骨の刃が鋭利に空気を切り裂く。

 冷たい光を発する刀身は、自分の身から滲み出る狂気の姿のように思えた。

「っ……!」

 右手がまた、剣を振った。空気が鋭い音を鳴らす。

 刹那のはずの音は幾多に重なり、断続的に狂気の音楽を奏でていた。

 鈴音はその、耳鳴りのような音楽に奥歯を食いしばった。

 嫌だ。

 いやだ。何で。

「リンネ」

 瞳の先の天使がまた、自分の名を呼んだ。

「リンネ、止まって」

 少しも臆した様子も無く訴える。突き出される刃を巧みにかわし、傷は一つも負っていない。

 ――止まりたい。傷つけたくない。

「ほら、どうしたの〝リンネ〟! 早くこいつを殺してよ!」

 別の誰かも名を叫んだ。

 はやし立てるような声音で催促し、そして笑う。

 きゃらきゃらきゃらきゃら

 また頭が軋んだ。

「――ゃ」

 頭の中を砕く笑い声。

 必死になって掴み取ろうとしたモノが粉々に砕け散っていく。

「いやあっ!」

 鈴音は両手で頭を抱えた。

「やめてっ! 壊さないで!」

「殺して! 天使を殺して!」

「もう殺したくないっ」

「違うわ殺したいの! リンネは殺したいのよ!」

 殺したいのよ?

「そうよリンネは殺したいのよ!」

 そうよ私は殺したいのよ?

 きゃらきゃらきゃらきゃら

 体が、すっと遠くへ行く感覚に包まれる。

 現実を離れた意識が、真っ白で暗いどこかへ落ちていく。

 目を開けると、色を失くした白黒の世界。体の周りは生ぬるい温度に満ちている。

 過去、何度も浴びた液体に満ちている。

 虚ろに上を見上げると、まっさらな虚空に黒い色が這い上がっていく。

 ああこれが、私の世界なの?

 血に濡れた闇空こそが私の生きる世界なの?

「リンネ」

 平坦な声が、湧き上がる衝動の中に躍った。

「――ああっ!」

 だんっ、と地を蹴った。

 跳びかかるように間合いを詰め、そして一気に剣を薙いだ。

 ひらっ、と布が翻る。白骨の剣は布の中心を切り裂いた。

 しかし肉の切れる感触は無かった。

 上空を見上げる。青い空の背景に黒い影が浮かんでいた。

 ちっ、と漏れた舌打ちに、鈴音は最早何の疑問も抱かなかった。

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