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3章の11

「最後の一人を残して、あいつらみーんな死んだわ。魔法使いを恨みに恨んで、痛みと絶望を奴らにも味わわせるために、死んで毒の粉になった。後は最後の一人が毒を撒いて完成。天使の思惑通り、毒は瞬く間に広がったわ。――全部の生き物にね」

 疫病はセルトに生きる全てを食い尽くす勢いだった。歴史書もそう語っていた。有魔・無魔を問わずに命を奪っていった、と。

「結局あいつらも、自分たちのこと以外は何も考えてなかったのよ。空から猛毒を撒けば全部の生き物に影響するってわかってたくせに、手っ取り早いからそうしたの。おかげであたしたちピクシーの一族もどれだけ苦しめられたか、考えたくも無いわ」

 マルベルの一種名がこぼれる。それが少女の素性だったが、しかし今の鈴音には気にも留まらなかった。

「肝心の魔法使いたちは、集めた天使の羽があるからどこ吹く風よ。倒れていくあたしたちを見ながら、あいつらきっと笑ってたんだわ」

「それなら何で……何で、魔法使いも疫病を境に数を減らしたんですか」

 少女の目がちろりとこちらを向く。

「セルトの魔法使いは、疫病を経て絶滅の危機に立たされることになった。そう学びましたよ。天使の羽があったのなら、何で彼ら全員が生き延びなかったんですか?」

 すると少女は不敵に笑った。

「――あんたたちのおかげよ」

「は?」

「何て名前だっけ? ああ、そうよアリス。アリスっていう人間が魔法使いから羽を奪って回ったから、薬を奪われた奴から死んでいったってわけ」

 鈴音の手元、握られている骨の剣を指差す。

「その剣を持って魔法使いにケンカ吹っかけたのよ。だからそこの死体も魔法使い。言ったじゃん。タリアの遺跡に魔法使いがいるって。死体だけどねー」

 昨晩の一言がよみがえる。翻弄された一言は、既に命無き死体の事だったのだ。

 騙された、と唇を噛んだが、それより鈴音は別の事が気になった。

「それなら、アリスは魔法使いを殺したんですか? セルトに生きていた魔法使いをこの剣で殺して回ったんですか?」

「違うわ。人間ってそこがバカよねー。殺さずに脅して羽を奪い取るだけ。キョーカツよ」

 あはは、と笑う。

「本当に魔法使いを殺したのは、怒りに怒ったあたしたちマルベル。過去見ができる奴がぜーんぶ暴いて、後は袋叩き。もちろん疫病で死んだ奴らもいるけどね」

 そして説明は終わり、と肩をすくめると、再び鈴音の持つ剣を指差した。

「事情は分かったでしょ? だから殺し尽くしてくれない? 魔法使いの生き残りと、生き返った〝最後の一人〟の天使を」

 鈴音は眉をひそめた。

「いわれない復讐を受けた恨みを、七百年後の今になっても晴らそうと言うんですか」

「そうよ。当然じゃん。時間が経ったからって恨みが消えることは無いわ」

 少女は再び鈴音に近づくと、上目使いに瞳を合わせて言った。

「今も恨みに苦しむあたしたちを救ってよ。過去に縛られるあたしたちを、アンタの力で解放してほしいの」

 立ち尽くす鈴音の耳元へ、少女は不思議な声で囁いた。

「今度はアンタがワンダーワーカーになるのよ?」

 頭の中が鈍く軋む気がした。

その時だった。

 二人は同時に真上を向いた。

 千切れ雲の浮かぶ空。青と白の色彩の中に、黒い影が一つ浮かんでいた。

 それは徐々に大きくなり、小屋の中へすとんと着地した。

 ふわりと舞うローブ。着るつもりで彼に誂えてもらった、陽色の刺繍の羽織物だった。

「――エル」

「リンネ」

 半目気味の少女が自分の名を呼んだ。

 すっ、とこちらに手を伸ばし、

「アリストの目、返して」

 軽く小首を傾げた、その瞬間。

「天使が来たわ!」

 きゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃら

 甲高い笑い声が耳の中で暴れ回った。

「ほら、天使が来たわよ! 殺して! 殺して!」

 少女は嬉々としてはやし立ててた。

「アンタも殺したいのよ、恨んでるのよ! 憎しみを発散させて。さあ、押し込めてるその感情をそいつに爆発させて!」

 きゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃら

「っ!」

 鈴音は床を蹴った。

「リンネ?」

 首を傾げるエルへ、鈴音は思いっきり刃を突き出した。

 しゃらん、と胸元からペンデュラムが落ちた。

 彼女はそれにも全く気が付かなかった。

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