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2章の4

 馬車に飛び乗ってエルを床に突き飛ばす。そして間髪入れず、素早い手つきで荒縄を手繰った。

 ぐぇ

 荒縄の輪の中で潰れた呻きを漏らしたのは、鳥の姿のマルベルだった。

 滞空したままバタバタと足をもがき、長い首を締め上げる荒縄を振りほどこうとする。

 猛禽の鋭い瞳は、うっ血でどす黒くなりかけていた。

「ごめんなさい。殺します」

 鈴音の声がアリストを我に返した。

「状況が不利です! 殺していいですね!?」

「あ……っ、ああ」

 アリストの返事を確認すると同時に、鈴音は荒縄の両端を持つ腕を深く交差させた。

 鈴音のイーゼルが牙を剥くのを感じた。

 ぼとり

 鳥の首が落ちる。

 意識と命を失くした胴体も、遅れて頭の隣に墜落した。

「……終わりました」

 荒縄を束ねながら、少女は呟いた。

 地面に崩れたマルベルの死骸を見る彼女の顔には、複雑な表情が浮かんでいた。

「エル、大丈夫ですか?」

 彼女は振り向き、馬車の床に倒れているエルを覗き込んだ。

 エルは裂傷を負った頬を手の平で覆い、放心したようにぼんやり前を見つめていた。

「怪我しちゃったんですね」

 鈴音が言うと、エルは頬を覆う手を下ろした。

 そこに傷は無かった。

「えっ、何で!?」

 鈴音が吃驚する。

 が、確かにエルなら、傷が消えても不思議ではなかった。

 目を丸くしている鈴音へ、アリストは簡単に説明した。

「天使だからだよ。天使は生命の象徴。その体はマルベルの中でも特に強い命と再生力を持っているんだ」

 だろう? とエルにつなげると、案の定こくりと頷いた。

 しかし当人の心は、どこか別の所にあるようだった。いまだぼんやりと前を向き、虚ろな瞬きを繰り返していた。

 鈴音の方は納得したようだった。感心したように頷きながら、荒縄を袖の中にしまう。

「ところでアリスト様、この辺の道って普段もこんなに危険なんですか?」

 アリストは首を横に振った。

「いや、そうじゃない。ここは領地の中でも辺境だけれど、中心と変わらないくらい平和だって聞いてる。マルベルの被害の報告は一年前に一件あったきりだ」

「じゃあ、何で一気に三匹も襲ってきたんですかね」

「それが分かるなら初めから別の道を通ってるよ」

 マルベルが突然襲い掛かってきた理由は、アリストにも全く分からなかった。

 この辺はあまり人の手が入らないエリアだが、時たま人の往来はある。しかし人間が襲われた話は久しく聞いていない。現に自分たちも、慰霊堂に来る時は何の襲撃にも遭わなかった。

「アリスト様はこっちの道を行きたいんですよね」

 鈴音が念押しするように問うた。

「どーぉしても、こっちに行きたいんですよね?」

 アリストは観念して頷いた。

「ああ。ペンデュラムがこっちに振れたんだ……一瞬だったけれど、確かにこっちの方角を示したんだ」

「それが魔法なの?」

 エルが首を傾げる。

 彼女の生きた七百年前に、道具を使う魔法は存在しなかった。ダウズについても初めて聞くのだろう。

「ダウズって言って、問いかけの答えを貰う魔法だ。質問が正当ならば、このペンデュラムが答えの在り処を示してくれる」

 ジャケットから十字架を取り出し、掲げて見せる。

「……奇跡をねがうかたち」

「これもワーカーの魔具だ。使い手のイーゼルを媒介するように造られてる」

「さっきは何を訊いたの?」

 エルの問いに、アリストは回答をしばしためらった。

「どうせ天使の骨を見つける気だったんでしょー?」

 なじるように言った鈴音に、うっと喉を詰まらせる。

「骨?」

 エルが心底怪訝そうに首を傾げた。珍しく眉間にしわを寄せている。

「エルの棺を開けたのも、おんなじ理由なんですよ」

 勝手に行動した報いだ、とでも言うような調子で鈴音は続けた。ますますエルは顔に疑問符を浮かべる。

 アリストは「もうどうとでも言え」とため息をつくと、馭者席に着いた。

 アリストの降伏が通じたのか、鈴音はそもそもの始まりから説明し始めた。

「アリスト様が天使の骨を探してる理由は、魔具が欲しいからなんですよ。ペンデュラムみたいな占術用じゃなくて、戦闘に使えるタイプの魔具です」

 客観的な自分の状況を背に受けながら、アリストは馬を走らせた。

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