連奏
――帰ったら練習するから、いつか一緒に弾こうって言ったのにね……――
それから、半年後、やっとばあ様の楽譜が完成した。
「はい。これで閣下はいつでもおばあ様の曲が弾けますよ」
教官殿は微笑んで楽譜を渡した。
それを受け取り、通しで弾いてみる。間違いなく耳に残ったばあ様の曲だ。
「これで、私の“任務”は終わりですね。いままで――」
「この曲は連奏する曲だとばあ様から聞いた」
別れを告げようとした教官殿の言葉をさえぎった。
六十数年の人生で、女性を何かに誘うなどと言う事はなかったので、それ以上の心はうまく言葉にできなかった。だが、彼女には十分伝わったようだ。
「わかりました。おばあ様の考えたとおりには弾けないでしょうけど」
彼女が了承してくれたので、手ごろな椅子を引っ張ってきて、並べた。
一つの音が生まれ、その音を彼女の音が戯れるように追いかけ追い越し、寄り添い、やがて解けて二つの音が消えて……何もない世界が生まれる。
「無骨な軍人の家系だからな。じい様も楽譜すらろくに見たことなかったんだろうが……」
じい様は戦死したと聞いた。ばあ様の願いは叶わなかったのだろう。
「もう一つ、大事な任務を忘れていました」
「ん?」
「この曲は名前を取り戻していません。あなたが名前を見つけてあげてください」
「いや、しかし。ばあ様の曲に勝手に名前をつけるのは……」
娘には、さんざんネーミングセンスを馬鹿にされているし……。
「おばあ様もそのほうがきっとお喜びになります」
――私が泡になったら、これも一緒に海の上に……――
どこまでも続く真っ青な空に……
そう、ばあ様の棺に楽譜を入れたのはわしだった。
「人魚姫のピアノ」
ポツリと呟いた言葉……たったそれだけで、音の羅列に海と空の色が付いた気がする。
「素敵な曲名ですね」
「エイル。その……勝手な願いだが、もしよければたまにここに来て、一緒に演奏してくれないか? 教師としてではなく、友人として」
ほんの少しの沈黙の後、
「わかりました。テューレ様」
彼女はメガネをはずし、微笑んだ。
少し先の未来、鬼将軍が妙齢の若い後妻を迎えるという珍事が王国軍を激震させた。
お読みいただきありがとうございました。
いろいろかっ飛ばしていますが、ハッピーエンドと言うことで。
お話貰った時の会話
私 :「……。鬼将軍、変態? もしくは犯罪者?」
知人A:「ピュアラブで変人なだけさ。ははは」
エイル逃げて~
後日、外伝を書く予定です。