黒きもの
わしはテューレ。王国軍の“元”鬼将軍だ。
普段は使わない先祖から代々伝わる武器を手入れしようと入った保管庫にその物体はあった。
金属の足が四本ついた黒い不恰好な箱、あ……敵の攻撃をかわすための、盾か防壁か?
「これがなんだかわかるか」
「ピアノであります!」
武器の手入れを手伝ってくれていた使用人のカイアスは直立不動できびきび答える。
わしがそれでもぴんと来ずに腕を組みうなっているとカイアスは「楽器であります!」
と明確な補足情報を伝えてくれた。
その言葉で遠い日の記憶がよみがえる。
ばあ様のピアノを弾いている姿と共に可愛らしい曲が耳に響く。
「確か中の白黒を押すと音が出るんだったな」
古い鎧やら剣やらが昔の輝きを保っているのに対して、忘れ去られたように埃をかぶったピアノ。わしはそれに触れてみた。
確かばあ様はここを押し上げていたはず。
「鍵盤であります! 閣下!
長年使ってないようですので、修理とちょ……調教が必要かと思われます!」
なるほど馬と同じで調教が必要なのか。
「うむ、とりあえず修理に出してみるか」
できれば、もう一度あの曲を聴いてみたい。