帰宅2
帰宅の続きです
私は言葉を失った。
いや、出す言葉が無い。
部屋になにも無いのだ。
しいて言えば壁、天井、床、窓があるだけだ。
彼はそれが当たり前だと言うように鞄を壁際に置き、窓を開ける。
新鮮な風がこちらに流れて来た。
「ドアを閉めてくれ」
彼は外を眺めながら言う。
私は慌てて入ってきたドアを閉める。 こちらを向く彼。
目が合ってしまう。
つい、目をそらしてしまう。
「座れば?」
彼は壁を背にして座る。
私も座る。
何か話さなければ。
でも、何を?
「ちょっと待っていてくれ」
彼はふいに立ち上がり部屋を出て行く。
何も無い部屋に取り残される。
どうしよう……。
戻ってきたら何か話さなければ。
でも、話する事が……。
部屋を見回すが、照明も無いこの部屋には話のヒントは無い。
いいえ、ある。
彼の鞄。
鞄に四つん這いで近づいていく。
ドアが開いた。
「何してるんだ?」
ゆっくり彼を見る。
「……」
言葉を出そうとしたが出なかった。
「それ以上鞄に何かするなら燃やすしかないだろ」
彼は紙パックのカフェオレ片手に言う。
つい頷いてしまう。
「……まあいい。これ飲めば」
カフェオレを私に差し出してきた。
私の好きな飲み物だ。
「なんでカフェオレ?」
「アキはいつも俺にカフェオレを買いに行かせてただろ」
そうでした。