帰宅
帰宅の前編です
「あの火事は彼が起こした訳じゃない?」
彼女と同じ道で帰宅している。
彼女から逃げられるように最低2メートルは離れている。
因みに彼女と俺の帰宅ルートが同じ事を先ほど知ったが、本当か信用ならない。
「先輩が隠れて吸っていた煙草が火元らしいよ。先輩も認めてたみたいだし」
彼女が側まで近づいてきた。
身構えはするが、逃げるように2メートルは離れにくい。
さり気なく離れるつもりだ。
「お前、それどこで聞いた?」
「お前じゃなくてアキって呼べよ」
彼女に足を蹴られた。
彼女の名前は与那国 照。
テルじゃなくてアキラらしい。
いつもみたく、返事はしない。
「先公と先輩が揉めているの見たし、聞いた」
先公とは彼女達の教員の呼び方だ。
「謹慎か退学になすだろうけど」
「なら彼は火事を利用しただけなのか」
「にしては用意が良すぎじゃねーか?」
確かにアキが言う通り、ガソリンに似せた水をガソリン缶に入れて持って来るなんて直ぐに出来る事じゃない。
「常に用意していた。火事が起こるのが分かっていた。って考えるのが普通か」
急にアキが大声を出す。
「面倒だ。考えるのは止めた、止めた。とりあえずお前んちに行くぞ」
「何で来ることになってるんだ」
彼女はそっぽを向いた。
「……友達だしいいだろ」
「今の間はなんだ」
「いや、別に」
アキはうろたえる。
「俺はお前が嫌いだし。友達と思った事もない」
今までの事を考えれば当たり前だ。
「友達と思った事がない……」
彼女は顔を抑えてしまう。
酷い事を言ったかな。そんな気を使う必要もないか。
無言で歩く俺たち。
正確には彼女はブツブツ小声を言いながらだが。
そのまま自宅の前まで来てしまった。
「おじゃましまーす」
庭に入り、玄関前まで行くアキ。
先に行くな。
さっきまでの気分はどうした。
「勝手に入るなよ」
「別にいいじゃん。しょっちゅう来てたし」
からかうために家まで尾行してた事だろう。
本人はバレてないつもりだろうがバレバレだった。
「俺は呼んだ事ないよ」
彼女はうろたえる。
俺は玄関の鍵を開けて中に入る。
「おじゃましま~す」
続けて中に入るアキ。
俺は無言で彼女の分のスリッパを出す。
「……悪いな」
笑顔。
「勝手に別の部屋に行くなよ」
「俺の部屋に来いって事だよね?」
無言で俺は部屋に向かう。
「いたいけな女の子を部屋に連れ込んでどうするつもりなのかな~」
不敵な笑みを浮かべている。
色々と間違ってる言動だな。
俺は自室の扉を開けて部屋に入る。
「おじゃましま~」
部屋を見た彼女は言葉を失った。