デジャヴ2
報復屋「デジャヴ」の後編です
「やめろ」
俺は言い放つ。
彼は足を止めて、こちらを向く。
「こんな奴を助けるのか?」
「違う」
彼は首をかしげる。
「いじめている奴が嫌いだからだ」
「そいつもいじめていただろ」
彼は生徒を指差す。
「今いじめているのはお前だ」
彼はそれを聞いて笑う。
「確かに自分だな」
明らかに楽しんでいる。
だが次に俺が言った一言で彼の表情は一変した。
「……分かったよ」
彼はライターとガソリン携帯缶をその場に落とす。
「自分はここらへんで避難するから」
彼はそう言うと学校の中へと戻って行った。
俺はそれを見るなり生徒に駆け寄る。
近づくとガソリンの臭いがよく分かる。
「無事か?」
俺の問いかけに対して無視する生徒。
その時、火が階段から屋上へと燃え広がってきた。
そこで気づいた。
扉から生徒の足元辺りまでガソリンが一直線に滴り落ちている。
引火すれば導火線のように火が一瞬で生徒に襲いかかる。
いくら服を脱いだからといって、身体についたガソリンは拭えない。
気づくのが遅かった。
滴り落ちたガソリンへと火が近づく。
「嫌」
生徒もその事に気付いたようだ。
俺はとっさに生徒を突き飛ばし、滴り落ちたガソリンを制服の袖で拭く。
扉の方を見ると、火が完璧にガソリンに触れていた。
「あ?」
変な声が出てしまった。
「引火しない?」
俺は袖についた液体の臭いを嗅ぐ。
ガソリンの臭いだ。
色もガソリンの色だ。
「もしかして……」
俺は生徒の制服を手に取る。
「何をするつもりだ」
俺は無視した。
火に近づいて行き、制服を火に当てる。
燃えない。
制服に火を当てるのを止めて触ってみる。
少し乾いている。
「水じゃねーか」
天に向かって怒鳴る俺。
生徒のそばまで歩いて行く。
「これは水だ」
「臭いと色はガソリンだろ」
生徒は信じられないような目で俺を見ている。
「ガソリンの臭いと色は後から付けている。あいつは水に同じように臭いと色をつけていたんだ」
生徒は信用ならないとか言いたげな顔だ。
「制服を着ろ。ここから出るぞ」
「……分かった」
生徒はすぐさま制服を着る。
「行くぞ」
息を止めて一瞬に階段を駆け下りる。
燃えていたのは屋上のすぐ近くの教室だけだった。
その下の階はいつも通りの学校だ。
「……ありがとうだな」
一階に降りた時に生徒が誰かに言う。
「お前に言っているんだよ」
意味がよく分からない。
「本当にガソリンだったらお前も燃えていたはずなのに助けようとしてくれたしな」
生徒は照れくさそうに言う。
「いじめられていると思っていないって言ってただろ。それを聞いて惨めに思えてきてさ」
彼が不機嫌になった言葉か。
「ごめんなさい」
初めて聞く言葉だ。
「彼に服を脱ぐようにはめられてお前の気持ちが分かったよ」
だからなんだ。
「……ごめんなさい。すまなかった。許してくれなくてもいい」
生徒は涙を流しながら言う。
「その言葉が聞ければいいよ」
俺は何を言っているんだ。
「いじめられているつもりも無いしな」
俺は俺自信に嘘をついた。
でも悪い気はしないな。
「……ありがとう」
生徒は泣きながら俺の顔を見た。
「でも身ぐるみを剥がされて金銭全て奪われたり、写真撮られたりは嫌だったけどな」
俺はふざけた感じで言う。
嫌みっぽいかもな。
生徒が号泣するかと思いきや、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「どうした? 熱さにやられたか?」
ちょっと心配になる。
「え、いや違う。それよりも」
そこで沈黙した。
数秒後、言われた。
「友達になってもいいかな」
そこで俺も沈黙した。
またはめる気か。
そう思ってしまった俺も酷い奴だな。
数秒後、言ってやった。
「言ってなるような物じゃないだろ。いつの間にか勝手になる物だろ」
それを聞いた生徒は安堵の表情なのか、嬉しそうに俺の腕を掴んだ。
「ごめんなさい。ありがとう」
びしょびしょに濡れた生徒――いや、彼女はそう言った。