お見通しさ
この話はアキラ、つまりアキの話になります
「それで学校で何があったんだ?」
私に聞いてくる兄。
「火事だよ」
漫画から目を離さずに答える。
「カジガアッタノカー」
何故か片言で返してきた。
面白くないよ。
「原因って何?」
「先輩が吸ってたタバコだって」
兄は「そうか」と小さく言った後、少し考え込んだ。
次に兄が口にした言葉は私の予想通りだった。
「ふっふ~ん。実は犯人は俺だ」
「ソウダッタノカー」
片言で答えてあげる。
「まあ嘘だが。俺だったらガソリン勿体無いからな」
実は俺だ。まあ嘘だが。
その言葉を何度聞いた事か。
嘘なのは分かってる。
お兄ちゃん、仕事だっただろ。
「……私、ガソリンって言った?」
漫画から兄の方に目を移す。
「昨日も今日も聞いてないよ」
即答。
「ならなんで分かったの?」
「ガソリン臭い制服で分かるでしょ」
即答。
「あれガソリンじゃないよ」
少し考える兄。
「じゃあガリソン?」
どういうボケなのそれ?
ガリソンって何よ。
「ガソリン臭がする水だって」
「そんな物、学校にあるんだ」
兄は納得したようだ。
「多分無いよ」
「じゃあ誰かが持ち込んだのか?」
「そうみたい」
「で、何でそれがアキラの制服に?」
答えにくい。
「色々あったの」
こう誤魔化しておこう。
「イロイロアッタノカー」
その返事はうざい。
ただ、兄は私が言いたくない事を理解してくれる。
言いたくない事を言わせるような人ではない。
「他人をいじめるのもいじめられるのも勝手だが、罪を罪と認識出来なくなるようにはなるなよ」
「ちょっとよく分からない」
再び兄は少し考えた。
「独り言だから気にするな」
それもしょっちゅう聞く。
「まあ悪い事をするなと俺は言わないが、悪い事を悪い事と認識しろって事だ」
結果、説明する兄。
「悪い事はしてもいい。ただし罪は必ず償え。どうやっても償えない罪ならば、やるな。ってクズの考えだしな。俺は」
一人で語り出す兄。
それを苦笑いで流す。
「じゃっ。俺は久しぶりの休みだし出かけるわ」
「いってらっしゃーい」
漫画に視線を戻す。
「あと好きな人が出来たってバレバレだぜ」
「なっ!」
部屋から出て行く兄の背中を見る。
「にやつき過ぎだ」
そう言うと兄は部屋から出ていった。
俺には何でもお見通しって言いたいのか。
まだまだ続くよ