7日目
鼓膜が切れたのか、テレビが切れたのか分からないが、いつの間にか音は止んでいた。
背中には冷たい固いものが当たっている。これは床だ。
平衡感覚が狂っていたらしい。立っていると思っていたのに実際は寝ていた。
さきほどのことが夢ではないかと思うほど、頭はボーっとしている。
しかし、夢ではない――そう確信している。
「分かってるよ。必ず見つけるから」
部屋を見渡す。だが、目的の場所はここではない。
何となく分かるのだ。
僕は玄関を出た。
部屋が連なる壁。
105と103の間。
ここに彼女が居る。分かる――――
僕は壁を叩いた。
素手では痛いだけだ。何か機材を――
周りを見渡すと、脚立が目に入った。鉄製で如何にも丈夫そうだ。
躊躇せずに壁に叩きつける。
手に衝撃が走る。痛い――――だが、気にしては居られない。
僕は助けるのだ――!
数度脚立を振りまわし、壁にぶつけた。
壁にヒビが入っている。もう少しだ。
「何をしているっ!」
隣の部屋からお兄さんが飛び出してきて、僕を一喝した。
だが、そんなことに構っている暇は無い。
「止めないでください。僕にはやらなければいけないことがっ!」
喋りながらも、脚立を叩きつけた。
「おい! 気でも狂ったのかよ! 警察呼ぶぞ!」
「勝手にしてください」
僕は余程狂乱していたのか、お兄さんはただ茫然と眺めているだけだった。
だが、今度は周りの住人が騒ぎ出した。携帯電話を片手に持っているものもいる。
警察が呼ばれた――時間がない。
僕は今まで以上に力を込め、壁を叩いた。
数十劇の末、壁の表面は破壊された。
何か見える――ドアだ。
「まじかよ…………」
お兄さんは信じられないという様子で僕とドアを交互に見ている。
彼の様子は面白かったが、僕に時間はない。
ドアに手を掛け、一気に開けた。
途端に、大量の黒い塊が僕目掛けて飛んできた。
「ぎゃあああっ!」
ギャラリーから声が上がる。そりゃそうだ。ゴキブリの大群が飛んできたのだから。
だが、僕は気にも留めない。田舎にいけば、このぐらいの虫。いくらでもいるっ!
「誰か、ライトを」
「お、おう……」
お兄さんは近くの非常灯を取り、僕に渡した。
僕を犯罪者か狂人だと思っていたギャラリーも静かになり、現れた部屋の様子に興味を抱いていた。
そこは部屋というより、一種の牢獄であった。
壁に囲まれた一畳ほどのスペースにフローリングが敷いてある。
僕は映像を思い出した。
あの角度は男たちを下から見上げていた。ということは彼女は――――
「床を開けます。誰か、何か――」
「ちょっと、待ってろ!」
ただならぬ気配を感じてか、お兄さんも僕に協力をしてくれた。
彼が持ってきたのはバールのようなものだ。
僕はそれを床に差し込みテコの原理で一気に押し上げる。
メリメリと腐食した床は裂け、変わりに中にある不自然な空洞が現れた。
そこにはボロボロになったシーツとそれに包まった何かがあった。
僕はしゃがみ込み、シーツを開いた。
「見つけたよ――――」
僕はそっと彼女の亡骸の頭を撫でた。
自然と涙が出た。