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世界樹の継枝  作者: ヤグチ
竜人
12/17

2話 脱出

目を開くと、私はだだっ広い何もない空間ではなく広い建物の中にいた。


「は?」


状況を把握できずに、思わず間抜けな言葉を発してしまう。


今いる場所は、おそらく半球状の建物の中。広さといい屋根の高さといいまるで開閉式のドームのようなこの建物は、天井付近が大きく開いており、そこから覗く大きな太陽からは柔らかな光が降り注ぎ、白い建物内をほのかに赤く染め上げている。


「は?」


状況が理解できず、もう一度間抜けな言葉を発する。


静寂の満ちる建物の中心部にいる自分の目の前にあるのは、白と黒の色彩を纏った卵形の二つの石。降り注ぐ光を浴びるその姿は、まるで日向の縁側で寄り添うお年寄り夫婦のような風情を醸し出している。


先ほどまで私に触れていた小さな二本の手は、いつの間にかいなくなっている。状況が飲み込めないまま、スポーツバックに両手両足を絡ませた間抜けな格好でしばらく床にへたり込んでいた私は、中に入っている化粧品ポーチがゴツゴツとして地味に痛いのに気が付き、強く抱きしめていた荷物から手足を離した。


「出られた…?」


先ほどまでと違い、自分の発した声は広々とした空間で思ったよりも大きな音で響いていった。


…てか、どこよここ?…


恐らくこの場所は、自分の住んでいた世界か精霊たちと過ごした世界、もしくは精霊たちが代表者を迎えに行った世界のどれかだろう。まったく絞りきれていない推測をして、先ほどまでの弾力のある足元と異なる冷たく硬い石の床をしっかりと踏みしめて立ち上がった。




◇◇◇◇◇




真上に昇った大きな太陽から降り注ぐ光は先ほどよりも薄くなっており、徐々に闇の比率が増している。その様子を見て、ここが元の世界(地球)ではないことが分かる。


この世界の太陽は常に天頂にあり、沈むことはない。かといって常に日が照っている訳ではなく、朝淡く輝き始めて昼にその黄金の光は最大となり徐々に夜に向かってその光は淡くなって消えていく。どういう原理化は不明だがこの世界では太陽の位置は変わらずに光量のみが変化する。現在、太陽が天頂にありながらも徐々にその光が薄くなっているこの状況は、今いる場所が地球ではないことを端的に示唆していた。


これまで精霊たちとすごしていたところには、人工的な建築物はなかったから、消去法で考えるとこの場所は精霊たちが代表者を迎えに行った世界なのだろう。

とりあえず、人魚族のところに出なかっただけ幸運だったことに安堵する。

いくらなんでも、泳げないわけではないが、水中に出て無事でいられる自信はない。

ここがどこか分からないけど、誰かに聞いたら分かるよね。と楽観視してネックウォーマーを口元まで引き上げると目の前の二つの石に近づいた。




◇◇◇◇◇




その二つの卵型の石は、意匠の凝った細かい模様が細部に装飾された台座の上に鎮座していた。一つは黒の、もう一つは白の色彩を纏ったそれらの石は、表面がつるりとした光沢があり、大理石でできているようだった。


「何かの美術展を開催中とか?」


それにしては、警備の人がいないし、台座に固定されてもいない不安定極まりない状態だ。落ちたらどうするんだろうと余計な心配をしながら、石に顔を近づけるとその黒い表面に自分の姿が映りこんだ。


…寝癖が付いていた…


手櫛で跳ねた部分を均して他におかしいところがないか、さらに顔を近づけて確認した。が、鼻から下が覆われていてよく分からない。ネックウォーマーを再び首元まで引き下ろそうと体を動かしたその時、卵形の石に手の甲が触れた。

絶妙なバランスで卵型の石は立っていたのだろう。微かにしか触れていないにも拘らず、ぐらり、と卵形の石が傾いだ。


「うわっ!!」


慌てて、両手で抱え込むように抱き止められたのは幸運だった。一瞬にして跳ね上がった心臓の音は痛いくらいだが、落とさなかったことにほっと深く安堵のため息を吐いた。


胸の中に抱いた卵形の石はその見かけに反して暖かく、冷えた体を徐々に温めてくれる。

暖かいな~、と思わず頬ずりしてしまった後、何か違和感を抱いて慌ててその頬を離した。


…何か違和感が…

まじまじと卵の表面を見つめて漠然とそう思った。


…何か違う…

隣にある白い卵型の石を見てそう感じた。


…確実に違う…

隣にある白い卵型の石をと比較して判明した。


抱えた石は触れている部分から、卵の色というか状態が変化してきている。


…これって、私が触ったからだよね?…


青ざめる顔色とは裏腹に、卵形の石は大理石ではなく天然石でできているかのような黒く透明なものへと変化し続ける。手を離せばもしかしたら元に戻るかもしれないと考えたものの、あまりの不思議現象に呆然としてしまい実行には移せない。

そんな間にも石はどんどん透明となり、その中に内包したものを徐々に浮かび上がらせていった。








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