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世界の始まりは、一本の樹。
この世界に存在するのは、一本の樹だった。
いつから世界に存在していたのかは分からない。ただ世界には樹が存在していた。
その幹は太く、青々としたその枝葉は腕を伸ばすかのように大きく広がっていた。
しかし、その事を知る者は誰もいない。
世界に存在するのは、その樹だけだったから。
長い長い時、世界にただ存在していた樹は、ゆっくりゆっくりと自我を育てていた。
ある日、樹は自分に興味を持った。
しかし、世界に在るのは樹だけ。
その他になにも存在しない世界では、自分の姿を確認することもできない。
樹は枝に果実を実らせ、そこから光を生み出した。生まれた光が樹を照らし出すと同時にそこから闇が生まれた。
光と闇が存在するその世界で、樹は初めて自分の姿を見ることができた。
自分の姿を見た樹は、自分がただそこにあるだけの不安定な存在であることを認識した。
そこで、自分の存在を確立すべく、足元に大地を生み出しそこにしっかりと根を張った。
根を張った樹は、それにより渇き枝葉が乾いた。
乾いた枝葉を潤すため、樹は水を生み出した。
水を得た枝葉は、再び青々とその枝葉を伸ばし、ぐんぐんと茂り潤った枝葉の擦れにより風が生まれた。
生まれた風は更に枝葉を揺らし、その擦れにより火が生まれた。大地に根付いた樹は、ぐんぐん大きくなり、やがてその枝に大小色とりどりの沢山の実を実らせた。
地面に落ちた小さな実からは植物や動物、昆虫などが生まれ、世界に彩りを加えた。
大きな実からは竜族が、風に揺られる実からは翼人が、大地に近い実からは獣人や人間が生まれ世界を賑わせた。
それぞれに番を得て子を作り、世界に広がる実より生まれし者たちを見て、樹は自分にも番が欲しくなった。
樹は自分の幹を分けて半身を作り出した。自分の番として。