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関西弁の守護精霊が憑いた王子は、悪役令嬢を溺愛する。

作者: トガタガト
掲載日:2026/05/04

この国では15歳の「祝福の日」、教会で祈りを捧げることで守護精霊を召喚する儀式がある。守護精霊は本人にしか見えず、稀に強い力を持ち人間に能力を貸す、寄り添う神秘の存在……のはずだった。


第一王子、ヴェクス・レイヴンクロフトが祭壇から目を開けたその時、目の前には金ピカに光り輝く、やけに陽気な虎のような精霊が浮いていた。


「おっ、あんた王子さんなんか! 景気ええなあ! ワイが守護したるさかい、この国は安泰やで!ガッポガッポや!」


「……守護精霊様。失礼ですが、変わった喋り方をされますね?」


「関西弁やで!」


「カンサイ…?」


こうして、高潔な第一王子には、うるさすぎる守護精霊が憑くことになった。


翌日、学園では守護精霊の話でいつもより賑やかだった。

ヴェクスには、「氷の悪役令嬢」と恐れられる婚約者、リコリー・フォン・ルル侯爵令嬢がいる。彼女はいつも眉間に皺を寄せ、ヴェクスに対して「公務を優先してください」「馴れ合いは不要です」と冷淡に言い放つ。不仲を自覚していたヴェクスだったが、守護精霊に「ワイをあてに婚約者に話しかけぇや」とおされたので、私も守護精霊の話を婚約者に持ちかけた。


「リコリー嬢、おはよう。昨日はよく眠れたかい? 私は、守護精霊様と話が盛り上がってしまって、少し寝不足気味だよ。」


リコリーは、いつものように眉間に鋭い皺を寄せ、冷ややかな視線を向けた。


「……おはようございます、殿下。ふん、守護精霊様とは話が盛り上がるのに、わたくしとは盛り上がらないと仰りたいのですか?」


「いや……そんなことは……。」


ヴェクスがタジタジとなっていると、横から騒がしい声が飛んできた。


「なんやえらい気のキッツイお嬢さんやなー。王子、そんならキスでもして黙らしぃ!」


(そんなこと出来るわけないだろう……!)


ヴェクスは心の中で絶句する。守護精霊のデタラメな助言に冷や汗を流していると、守護精霊は「しゃあないな」と肩をすくめました。


「じゃあ、手ぇ握って『君と盛り上がりたい』って言っとき。これくらいならイケるやろ?」


(……? それくらいなら……。)


それならば誠実なコミュニケーションの範疇だと、納得し一歩踏み出した。リコリーの白く細い手をぎゅっと握りしめる。


「リコリー嬢……私は君と一緒に、盛り上がっていきたいと思っているよ。」


「……っ!?」


リコリーの顔が、火がついたように一瞬で真っ赤に染まった。


「なっ、そっ、でっ……破廉恥ですわっ!!」


「えっ?」


突然の怒声にヴェクスが目を丸くしていると、守護精霊はリコリーの周りをぐるぐると回りながらニヤニヤと笑い出した。


「どえらい勘違いしてはるで、このお嬢さん。お年頃やなー。」


(勘違い……?)


「それに、これはタダのツンデレですわ。本心は嬉しくてしゃあないんやで。王子、これは押せ押せで行けますわ! もっとぐいぐい押しぃ!」


(つん……?押す……?嫌じゃないのか?もし守護精霊様の言う通り、彼女が私を嫌っていないのなら……。)


ヴェクスは意を決して、さらに踏み込みこんだ。


「じゃあ、今日のランチは二人きりでどうだい? いつもは側近も一緒だろう? 私は君と二人で、ゆっくり過ごしたいんだ。」


「ふっ、二人きりっ……!」


リコリーは衝撃を受けたように目を見開く。あまりの反応の激しさに、ヴェクスは不安になる。


「やっぱり……嫌だったかな……?」


「そっ、そんな……もごもごもご……。」


「うん?なんだい?」


耳を近づけるヴェクス。すると守護精霊が彼の耳元で怒鳴る。


「嫌じゃない言うとるで!ちゃんと耳かっぽじってよく聞きぃ!難聴かいな、まだ15歳やろ!」


(酷い言われようだ……。だが、嫌ではないのだな?)


ヴェクスはリコリーの瞳をじっと見つめ、微笑む。


「嫌じゃないなら、ランチ、楽しみにしてるよ。」


「は……はい……。」


リコリーは蚊の鳴くような声で返事をし、顔を両手で隠して足早に去っていった。その後ろ姿を見送りながら、ヴェクスは自分の胸の高鳴りに気づき、「守護精霊様のアドバイスも、案外悪くないな。」と噛み締めた。


ランチは和やかに進んだ。リコリーが挙動不審に眉に皺を寄せるたび、守護精霊はツンデレツンデレと繰り返した。どうやら照れる際誤魔化すように拒否をするらしい。ヴェクスはリコリーの反応に目が離せなくなってきた。


「ほれもっとぐいぐい押せ押せオラオラで行きぃ。ぐいって行ってバッってやってキュンやで!」


これは面白がっているだけでは?と思う守護精霊のアドバイスを貰いながらランチを進めていると、学食に女子生徒の声が響き渡る。


「ヴェクス様ぁ! そんな怖いリコリー様より、私と一緒に過ごしましょうぅ。」


甘ったるい声を出しながら、ヴェクスの腕に絡みつこうとしてくる。リコリーの眉間の皺が一気に深まり、周囲の空気が凍りつく。


「貴女は男爵令嬢の……ミイアさん……でしたっけ? 食事の邪魔をしてどういうつもりかしら。殿下の名を気安く呼ぶなんて。身の程を弁えなさい。」


リコリーの鋭い牽制。しかし、ミイアは怯えるどころか、わざとらしく肩をすくめてヴェクスにすり寄ってくる。


「えー、リコリー様こわぁい。ヴェクス様ぁ、私、邪魔なんかじゃないですよねぇ?」


その瞬間、ミイアの瞳がピンク色の光で怪しく揺らめく。


「うわ、コイツ魅了使ってきとるで! 王子、目ぇ合わせたらアカン!」


守護精霊の怒声に近い警告に、ヴェクスは反射的に「ばっ」と勢いよく目を逸らした。


「えー、ヴェクス様照れてますぅ? 可愛いー! 私にメロメロなんですね!」


勘違いも甚だしいミイアの台詞に、リコリーの顔から血の気が引いていく。「殿下……?」と、不安そうに自分を呼ぶリコリーの声が聞こえるが、ヴェクスは目を合わせることができない。


「王子、マズいで! ワイな、魅了を跳ね返すんは無理やで!……せや、ビームなら撃てるけど、どないする? 撃つ? 眉間、ぶち抜いたる?」


(撃ったらどうなる……!?死人が出るのは止めてくれ!どうすれば穏便に済ませられるんだ……!)


ヴェクスが必死に思考を巡らせている間にも、ミイアの攻勢が止まらない。彼女は豊満な胸をヴェクスの腕に押し付け、逸らされた彼の顔を下から覗き込んでくる。


「ヴェクス様ぁ私だけを見てください。ね?」


魅了の毒気が凝縮された至近距離からの囁き。ヴェクスは物理的な圧迫感に冷や汗が止まらない。


「……離れて、くれないか」


「えー、照れちゃってぇ。本当は、私に夢中なんでしょう?」


「……っ」


「目ぇ合わせんでもなんか侵食きとるぅ。やばいでぇ!どないしたらええねん!」


ヴェクスが限界を迎えそうになったその時、リコリーは立ち上がりる。


「……ええ、そうですわね。毒虫を払うのは、婚約者であるわたくしの役目ですわ。」


リコリーの全身から、これまでに見たこともないような神々しくも圧倒的な力が溢れ出す。守護精霊の力を媒介にした、浄化の力が、学食全体を飲み込まんばかりに膨れ上がる。


「ヴェクス様はわたくしのですわ!!」


光が弾け、ミイアの中から禍々しい気配が霧散していく。


「私の体……戻った……。」


ミイアはその場で泣き崩れた。リコリーは戸惑いながらも優しく彼女の手を取る。


「…大丈夫ですわ。悪いものに取り憑かれていたのですって。わたくしの守護精霊の力で浄化されたそうよ。」


ミイアは「祝福の日」に何者かに体を乗っ取られ、意のままに動かされていたらしい。動けない体の中で、「ヒロインに転生した!逆ハーレム作るんだから!」と意気込む声を聞いらしい。リコリーの放った光は、居座っていた魂を根こそぎ浄化した。


「リコリー嬢…すまない。私は何も出来なかった…。全て君のおかげだ。」


ヴェクスが沈痛な面持ちで謝罪すると、リコリーは慌てて首を振る。その瞳にはいつもの険しさはなく、潤んだ熱がこもっていた。


「そんなことありませんわっ!殿下が…魅了に抵抗してくださったおかげで守護精霊様のお力を借りる時間ができましたの。……それに。」


リコリーはふいと視線を逸らし、耳まで赤くして呟く。


「わたくし殿下に対して酷い態度を取っていたと…守護精霊様に怒られてしまいましたわ。……素直になれ、と。」


その言葉に、ヴェクスはふっと表情を緩める。


「私も…守護精霊様が居なければ君とすれ違ったままだった…。でも私はリコリー嬢のものらしい。」


「そっそれはっちょっとした言い間違いですわっえっあっう…守護精霊様…本当はわ、わたくしも殿下のものですわ………って言えって言われましたわー!!」


告白なのか、守護精霊への抗議なのかを叫ぶ。しかし、リコリーの真っ赤な顔を必死な眼差しは、何よりも彼女の本心を語っていた。


「ほれここで押せ押せで行きぃ!男見せるとこやで!!」


守護精霊に煽られるよりも早く、ヴェクスはその場で跪きリコリーの手を取った。恭しく、そして熱を込めてその指先に口づけを落とす。


「でっでっ!!」


「リコリー。……君がそう言ってくれるなら、私は幸せだ。心から私を愛してもらえるよう、これから一生かけて頑張るよ。」


「……っ!!」


リコリーは顔からボッと音がしそうなほど熱気が上がる。


「おっしゃ!王子やるやん!結婚式はピッカピカのド派手にやったるからなー!!」


金ピカに輝く虎が舞い踊る中、二人は見つめ合う。リコリーが素直になるまであともう少し。

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