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詩集

お狐と呉服屋

作者: ロースト

一際強い風に煽られ、前髪が視界を遮る。

そんな一瞬の出来事。


黒く、低い雲が足早に去っていく。嵐が来る寸前の静けさがそこには横たわっていた。

映る色は暗い色ばかり。完全な夜になる前の星のない空、空を覆うように立ち並ぶ高い木々。

進み、風が吹く。

開けた先にあったのは湖。

広い湖はもう一つ月をその水面に描く。

そして、自然と言えない、ソレ。

湖面に浮くようにある。

まるで違う風景、違和感。

でも打ち解けた空気。

水面中央、少女は存在した。


滑らかになされる体重移動、しなやかな身体の動き。

洗練されたそれらが、魅惑的だった。

水面に浮かび、沈まず弧を描くその足先にはまるで羽根でもついているかのように軽い。

そして、少女の着る服が、なんとも眼を惹いた。


艶やかな美しい布地は上質なことが暗闇でも知覚させられる。

苛烈な色合いが少女の肌を白く浮き立たせ、儚さをより引き出す。輪郭が曖昧で存在がぼんやりと見えるのに沸き立つような梔子の香りを醸すかのように錯覚させる。


舞い上がる飛沫と揺れる黒髪が月の光で美しく魅せる。

記憶せむ、と眼を皿にするが頭に記憶として残ることはない。

朧な勘定が残滓となって残るのみ。


舞が、終わる。


少女は微笑んでいた。

その瞳に昏い揺らぎを乗せてこちらを見る。

私はメデューサに会ったかのように動けず、視線を交わす。

不意に少女が動く。

そのたおやかな両の平を絡め、帯を引く。長く、長いソレが視界を満たし、少女を映さなくなる瞳。ソレが消えたとき、少女はいなかった。

(狐に、化かされた……)


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