バカ高いただの石に永遠を誓う理由 ~離婚なき世界の宝石店にて
そうかいそうかい。
アンタの世界では婚約指輪と結婚指輪が別なのかい。
えっ? 余計に金を使わせる、宝石業界貴金属業界の陰謀だって?
ふえっふえっふえっ、面白いねい。
まあお聞き。
アタシらの世界では婚姻の指輪がある、ということは知ってるんだね?
永遠の愛の証として、結婚する時夫婦で身に着けるのさ。
アンタの世界でも一緒かい?
ひょっとすると起源は同じなのかもしれないねい。
主に庶民の風習だね。
何故庶民の風習かって?
そりゃあ富裕層ならば指輪なんてちゃちなものじゃなくて、大きな宝石をペアで手に入れるからだねい。
ん? 意味がわからない?
婚姻に重要なのは宝石なんだよ。
宝石は精霊の化石なんだ。
だから魔力を持っている。
聞いたことがないって?
単なる事実なんだけどねい。
婚姻を絶対的なものとするために、精霊を媒介にした魔法の契約を結ぶと考えればよろしい。
離婚? できるわけがないだろ。
指輪を交わすことは厳密な魔法の契約だもの。
別れたくなった時はどうするかって?
我慢するか相手を殺すかの二択だね。
殺伐としてるって?
まあそういうものとして認識されているからねい。
アタシらの世界の結婚が重くて怖い?
アンタの世界では離婚が容易なのかい?
三、四組に一組は離婚?
冗談ではなくて?
永遠を誓って壊れる関係のほうが怖い、って考えはないのかねい。
文化の違いかね?
アンタ、結婚を簡単に考え過ぎてるのと違うかい?
アンタの世界でも結婚は正式に書面をやりとりする契約なんだろう?
契約が甘いわけないだろう、普通に考えて。
理屈に合わない緩さ、大らかさほど闇に近いものはないと、覚えておくがいいよ。
きっとアンタの世界でも通用する考え方だから。
しかし……宝石の指輪を媒介に使って永遠の愛を誓うなら、アンタの世界であっても魔法契約は発動すると思うんだがねい。
待てよ? アンタ宝石が精霊の化石であり、魔力を持つってことを知らなかったね。
アンタの世界では多分誰も知らない?
じゃあそっちでは、アタシ達の認識とは違うものが宝石扱いされているのかもしれないねい。
魔力を持たないただ奇麗なだけの石が。
だとすると離婚が多いことにも説明がつく。
永遠を誓って別れるなんて笑えちまうが、そういういい加減な世界なんだね?
何を拠りどころにして生きているのかねい。
信じられるものがあるのかい?
ウソに塗れた生活なんじゃないのかい?
まあいい、アンタは宝石を買いに来たんだね?
そっちの世界では婚約指輪や結婚指輪が高価なのかい?
月収三ヶ月分? 魔力も持たないただの石が?
何でそんなに高いんだい?
宝石業界貴金属業界の陰謀、またそれか。
きっと当たってるに違いないねい。
うちの品揃えを見ていきなよ。
アンタの好みのもきっとあるだろう。
これくらいの宝石でいいのかい?
アンタの世界の一〇〇分の一以下の値段だって?
そうかもしれないねい。
何で宝石なのに安いのかって?
魔力を含んだ特別な石なのに?
いや、行くところ行けばいくらでも落ちているからね。
すなわち精霊の墓場ならば。
拾いに行くのは結構面倒だけれども、採取運搬の専門業者がいるんだ。
王侯貴族の持つような特大の宝石だったら、そりゃあ高価さ。
でも庶民の婚姻の指輪は壊してしまうことが多いね。
どうして壊すのかって?
契約に使うだけだし、資産価値もありゃしないからね。
それに壊すとまた精霊が生まれて、キラキラ祝福してるようで美しいのさ。
ところで本当に宝石を買っていくのかい?
確かにアンタの話を聞く限り、安上がりなんだろうけどねい。
ただこいつは本物の精霊の化石だよ。
婚姻の契約に使えば離婚できなくなるんだが、理解しているだろうね?
よく考えな。
……結論は? 買うのはやめておく?
ああ、それがいいさ。
バカ高いただの石に永遠を誓って、いつでも離婚できる薄っぺらい愛で満足しているのがアンタにお似合いさ。
言い様がひどい?
ひどいのはアンタの世界だと知るんだね、ふえっふえっふえっ。
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