第4話 自称ドワーフ、修二の車を奪うまで帰らない。〜ほしい物は全部私のもの〜
鉄の箱――いや、車を前にして、ドワーフが突然はしゃぎ始めた。
「修二!! これは……これはっ……ッ!!
動く家か!? 走る小部屋!? なんだこれは!?
きゃーーっ!! わし、こういうの初めてじゃ!!」
「おい待てテンション! さっきまで“鉄の馬の腹の中”って言ってただろ!?」
ドワーフはシートベルトをつまみ、やたらとバインバインしている。
「見よ修二!! この紐! 締めると抱きしめてくる!!
優しい……なんだこれは、抱擁装置か!!」
「違う! シートベルト! 安全装置! 誰もお前を抱きしめない!!」
しかし彼女はまったく聞いていなかった。
「修二、これはわしにくれ!!
この“座ると眠くなる椅子”もついでにくれ!!
あとこの“手をひねると風が出る棒”も!!
ぜんぶくれ!! 全部ほしい!!」
「欲張りすぎだよ!?
お前の“全部ほしい”はもう強盗レベルなんだって!!」
ドワーフは車内をぺたぺた触りながら目を輝かせている。
「だって楽しい!!
まず動く! 止まる! 揺れる! 寝れる!
この四拍子そろうもの、世界にあるか!? ……ないわ!!
修二、お主すごい文明に住んどるの!!」
「いや、自慢する気ないけど……興奮しすぎて逆に怖いわお前!」
そのくせ、言っていることは破壊的だ。
「修二……本当にこれ、わしにくれぬのか……?
わし、一生大事にするぞ……たぶん半年で壊すけど……」
「壊す前提で語るなよ!!?」
そしてついには、車体を撫でながら呟いた。
「じゃあせめて色は変えてもよいか?
ほら、ここら辺の金属剥がして……中の筋(配線)見たい……。
見せて……見せて……(うずうず)」
「ダメ!!!
配線は“筋”じゃない!!
見せても触らせてもいけない!!!
お前ドワーフなんだから誘惑に弱いのわかってんだよ!!」
「修二……お主、わしの心を読めるのか……?」
いや、読めなくても分かる。
こいつは目に光が宿った時点で“壊す気満々”だ。
「じゃあわし、この鉄の馬……名前つけてもよい?」
「まだお前のじゃねぇよ!!?」
◆
修二がため息をつきながら鍵をしまい、
「……よし、帰るぞ。もう知らん。」
踵を返した瞬間だった。
バサァァァァァァ!!
ドワーフが草原のど真ん中で大の字になった。
「いやじゃああああああああ!!
この鉄の馬は!!
わしのじゃあああああああ!!」
「草原の真ん中で寝転ぶな!? 獣に食われるぞ!?
主に俺のメンタルが!!」
ドワーフは地面をバタバタ叩きながら泣き声を漏らす。
「わしは……ただ……
あの鉄の馬と風を斬って走りたかった……
それだけなのに……修二が奪ったのじゃ……
裏切ったのじゃ……
わしの心……ピキ……ピキ……」
(※草の根が切れる音がした)
「心の破壊音リアルにすんな!!
やめて!? 本気で俺が悪者になる!!」
そして、ゆっくりと上体を起こし、修二を指さした。
「修二。わし、決めたのじゃ。」
「その顔やめろ? 絶対ろくなこと言わないよね?」
「お主を……倒して奪う。」
「出た!!
異世界人お得意の“暴力で解決”!!
意味わからんほど早く物騒になるのお前だけなんだよ!!」




