【第4話 反響の式日】
朝の教室に、ざわついた空気が流れていた。
「また出たらしいよ、昨夜の異形」
「第三封域の結界が揺れてたって」
呪異の兆し。封印の綻び。
千歳は胸騒ぎを覚えながらも、ある確信を抱いていた。
——それは、或ではない。
「昨日の彼は、ずっと教員宿舎にいたわ。封域の警戒式も反応してない」
灰音の情報だった。彼女は裏口経由で結界の痕跡を調べていたらしい。
では、あの“異形”は何なのか。
放課後、千歳は或に直接尋ねた。
「昨夜、結界が揺れました。あなたじゃないと信じてます。でも……」
或は静かに目を伏せた。
「“私に似た何か”が動いている」
「……どういうこと?」
彼は言った。
「私は“零番”。他にもある、“壱”から“玖”までの失敗作たちが。封じられ、あるいは捨てられた。けれど、何体かはこの学園の地下にいまだ存在している」
「まさか、それが……」
頷き、或は続ける。
「私は君たちに害をなす存在を止められない。命ずる声があれば、従ってしまう」
「なら……私が命じたら?」
彼は、はっとして千歳を見る。
「私が、あなたに“守れ”と命じたら、どうなるの?」
或の瞳が、微かに震えた。
「君の“名”が、今の私を縛る数少ない鍵になるかもしれない」
「だったら、言わせて。私は、あなたに生きてほしい」
千歳の声は震えていた。
けれどその言葉は、式として、反響していた。
彼の内なる呪にまで届くほどの、名の響きとして。
それは、ふたりを新たな式日へと導く第一歩だった。