表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

【第2話 呪鎖の記憶】

「どうして……あなたが……」


言葉にならない。千歳の声が震える。

或は、まるでそれを予期していたように目を伏せた。


「私は、ここにいてはならない存在なんだ。けれど、誰かが封を解いてしまった」


「封を……解いた?」


彼は頷いた。


「呪鎖を持つ者——君の血筋の誰かが、意図せず鍵を失った。それがこの封印の綻びを生んだ」


千歳の心に、祖母の顔が浮かぶ。

数か月前に急逝した、強大な呪術師だった彼女。

彼女の死が、この“彼”の解放に関わっているというのか。


或の声が静かに続いた。


「私はもう、人を守ることも、人に害を為すこともできない。名を奪われたこの身は、ただ命じられるまま動く呪詛の器だ」


「それでも……あなたは、自分の意思でここに来たのでしょう?」


千歳の問いに、彼は短く笑った。


「……そうかもしれないな。だがそれは、君のせいだ」


「私の……?」


「君の名が、私の中にまだ残っている」


脳裏をよぎる、遠い昔の夢の断片。

紅い空、白い狐、涙を流して名を呼ぶ誰か——


千歳は胸を押さえた。心臓の奥で、何かが痛んでいた。


「君が私を覚えていようがいまいが、君の名が私を縛っている。それは呪いにも、絆にもなり得る」


「なら、私はあなたを……」


言いかけて、千歳は黙った。

何をすればいいのか、まだ分からない。

けれどこのままでは、彼が再び“呪詛兵器”として扱われる未来が見える。


或は、そっと手を伸ばした。

その指先が千歳の髪に触れ、柔らかく絡め取る。


「君に願うのはただ一つ。私の名を呼ばないでくれ。それが、君の命を守る唯一の方法だ」


その声はひどく優しく、そして哀しかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ