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第97話 龍と龍


 ヴァリス、プネブマが冒険者に連れられてやってきたのはギルド前だ。

 そこは戦場と化していた。

 崩壊する建物、周りは炎に包まれている。

 倒れて苦しむ冒険者たち。


「マジヤバな呪いじゃん。シャレにならないっしょ」


 プネブマは倒れている冒険者たちに向けて権能を行使する。

 癒しの波動は空間を包み込み、苦しむ冒険者たちに最上級の癒しを与えて、呪いを振り払う。

 呪いから解放された者は安堵の表情で意識を失う。


「負傷した人はギルドに運んでください!」


 声を張り上げるのは猫耳が特徴的な白髪の少女だ。

 ギルド職員、冒険者が一丸となって負傷した者や気を失った者をキルド館内へ運んでいく。

 その中には当然一般人も含まれている。

 平和なはずの街は阿鼻叫喚の地獄となっていた。


 地獄を作り出した存在。

 それはあまりにも巨大な生物だ。

 灰色の堅牢そうな鱗、鋭利な爪、蝙蝠の羽を巨大に厚みを持たせたような翼、爬虫類を連想させる澱んだ瞳、人間など簡単に噛み砕けてしまうであろう顎。

 それは伝承などで語られる超常存在──龍である。


 龍と対峙していたのは猫耳が特徴的な黒髪の少女だ。

 その表情には苦痛が浮かび上がっており、額には汗が滲んでいた。

 当然だ。

 実質的にモカが一人で龍の侵攻を喰い止めていたのだから。


「チィ……クソ面倒な奴だにゃ。これ以上、こっちに時間を割くのは……」


 忌々しく呟くモカ。

 その時だった。

 空間を切り裂くような声が響き渡った。


「やはり貴様か、クルグロヴァ!」


 金色の髪をなびかせて、黒いドレス姿の美女が龍の前に立つ。

 モカはヴァリスを一瞥する。


「お前、確か魔術バカの……」

「ここはワシに任せろ。龍の相手は龍と決まっているのじゃ」

「そうかにゃ。じゃあ、任せるにゃ」


 モカはその場をあっさりとヴァリスに任せて後方へ下がる。

 ヴァリスの姿をジッと見ていたクルグロヴァがゆっくりと声を発する。


「キサマ、ヴァロスラヴァ。ニンゲンノマネゴトトハオチタナ」

「ハッ、貴様に言われたくないわ。呪いを振りまくことしかできない痴れ者が。それに今は魔王軍なんじゃろ? 人間に組している貴様の方が堕ちておるわ」

「ソノコトバ、カエス」

「抜かせ。ワシは組しているのではない、庇護してやっておるのだ。この街の冒険者どもは雑魚しか居らぬからな」


 戦いに参加しようとしていた冒険者たちが図星を突かれたという顔をする。

 始まりの街、と言われているのだから実力はしょうがないだろう。


「キサマトハムカシカラソリガアワン」

「ワシと貴様じゃ龍としての格が違うからの」

「ココデアッタノハコウキ。カクノチガイヲミセテテヤル……ワガノロイヲクライオボレシズメ」

「よく吠えた痴れ者! 褒美に完膚なきまで叩き潰してやろう!」


 ヴァリスの全身から闘気が吹き荒れる。

 凄まじい威圧感を目の当たりにして、冒険者たちが声をあげる。


「いいぞ! やっちまえヴァリス!」

「俺らの宴会ドラゴン!」

「呑んだくれの本気見せてやれ!」


 ヴァリスが勢いよく飛び上がる。

 クルグロヴァが大きく口を開いた。


「ヒトノナリデクルトハ、オノガチカラヲオゴリスギダ」

「驕り、慢心あってこその龍じゃろ!」


 ヴァリスが大きく息を吸い込んで肺を膨らませる。

 対するクルグロヴァ。

 大きく開いた口の奥に禍々しい呪いが混ざった炎が発生する。

 

 互いに炎を吐き出す。

 魔術で創り出した炎とは比べ物にならない原初の輝き。

 二種類の炎がぶつかり、混ざり合い、空気が悲鳴をあげる。


 炎が消えた時、ヴァリスの姿は消失していた。

 気配を探すクルグロヴァ。

 だが、遅い。

 ヴァリスは拳を硬く握り締めて、クルグロヴァの頭部に全力の一撃を叩き込んだ。

 龍の巨大な頭部は衝撃に耐えきれず、地に勢いよく伏した。

 大地が砕けて、破片が飛び散る。


 華麗に着地したヴァリスは大きく胸を張って笑い声をあげた。


「グゥハハハハハハハ────ッ!!! やはり龍を殴るのは愉快じゃ!」


 大笑いするヴァリスに向かって、鋭利な爪が襲いかかる。

 死角からの攻撃。

 しかし、ヴァリスは一切振り向かずに黒い尻尾で難なく弾き飛ばす。

 弾かれた衝撃でクルグロヴァの腕が千切れ宙を舞う。


 絶叫する龍の咆哮を塗り潰すヴァリスの愉悦。


「早く立ち上がれ。ワシを愉しませろ、痴れ者が」


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