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第96話 勇者パーティーの栄光⑦


 私は攻撃を開始した。

 無数に展開された魔法陣が一斉に輝き始め、様々な魔術が発動する。

 それは魔術の暴風雨だ。

 玉座の間を覆い尽くす超常現象に死角はない。


 国王は一歩たりとも引かずに大剣を強く握りしめて、飛来する魔術を迎撃する。

 圧倒的な物量の前に己が身しかない国王は当然ながら全てを防ぐことはできない。

 大剣で五つの魔術を屠る間に十の魔術が襲う。


 魔術無力化、などという反則紛いな鎧にもしっかり当たっている。

 問題は魔術無力化の許容限界に達するまで私が保つかどうか。


 絶え間なく魔術を同時複数行使し続けるのは信じられない苦痛だ。

 脳神経が焼き切れて、脳細胞が破壊されていく感覚がある。

 下手しなくても廃人になってしまう。

 流石に廃人になるのは嫌だから、回復魔術を脳にかけ続けて最悪の展開を回避している。


 神業と言っても過言じゃないでしょ。

 こんなこと出来るのは世界に私しか居ないと思うし。


「はあぁぁぁぁぁぁ────っ!!!」

「ぬゔゔぅぅぅぅぅ────っ!!!」


 目から鼻から血が溢れ出るのを感じても、私は攻撃の手を一切緩めなかった。

 延々と降り注ぐ魔術に国王は身を固めて防御の姿勢を取ることしかできなくなっていた。


 よく見ると鎧に亀裂が入っている。

 限界に達したようだ。

 ざまぁみろ。

 反則紛いな力だって、私が本気を出せば捩じ伏せられるのよ。


 無数に展開していた魔法陣を一つに統合する。

 巨大な魔法陣が展開されて、止めの一撃を国王に放った。

 それは極光の一撃。

 最後に相応しい美しさと輝きを放った。


 光が収まる。

 国王は膝をついて、今にも倒れそうな体を大剣で支えていた。

 身につけていた鎧は全体的に亀裂が入り、今にも砕けそうだ。

 ついでに言うと大剣に装着されていた宝玉は全て砕けている。


 私は国王に近づく。

 その時だった。


「シェリル! 父上!」


 玉座の間の入口から声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはボロボロ姿のオスニエルたちがいた。


 四人は破壊の爪痕が残る空間を見て驚きを露わにする。

 私の元に来た瞬間、イヴィーとイアンが悲鳴を上げる。


「ち、血だらけじゃない! 大丈夫なの!?」

「すぐに回復魔術をかけるわ!」

「ありがとう。額の傷、お願い」


 というか、顔に関してはそこしか外傷がない。

 他は内側から生じたものだし。


 オスニエルは国王に寄り添う。


「父上……」


 国王は動けない様子だが意識ははっきりとしているようで、寄り添う息子を一瞥してから私の方を見る。


「見事だ、賢者シェリル。我をここまで消耗させるとは……」


 うーん、ずっと思っていたけど終始上から目線なのよね。

 一国の頂点に立っているから仕方ないかもしれないけど。

 こういう悪いところがオスニエルに引き継がれてしまったのかもしれない。


「父上……これは『封魔の黄金王』、『破滅の皇后』では?」

「いかにも。相手が賢者、四皇将となれば出し惜しみはできぬ」

「そこまでして」


 凄い装備品っていうのは何となく察していたけど、オスニエルの動揺具合からすると……。

 ひょっとして国宝級だったりする?

 ちょっと罪悪感がでてきちゃった。


「対峙して分かった。貴殿のような清廉で美しい魂を持つ者が魔王軍とは思えぬ」

「疑いは晴れたってことでいいのかしら?」

「然り。どうやら我は盲目になっていたようだ」


 そう言って、国王は玉座の後ろで気絶しているコルト大臣を横目で見る。

 それから、オスニエルに視線を向けた。


「先ほどは済まなかった。お前の話に耳を傾けていたら、このような事態にはならなかっただろう。我の責任だ」


 オスニエル、イヴィー、イアンをまじまじと見つめて、国王は少々驚いた表情を浮かべた。

 そして、私を見てから納得したように笑みを浮かべた。

 え? なに?

 ボコボコにした相手に笑みを向けられるとか怖いんだけど。


 困惑している私から視線はエベリナの方へと向かう。


「四皇将エベリナか」

「えぇ」

「貴殿のような魂の持ち主が魔王軍とは世知辛いものだ」

「あら、褒めてくれるとは驚きね」

「我は魂の輝きを見る。魂は真実のみを語る。だが、貴殿の犯した罪は清算すべきものだ」


 今にも倒れそうなのになんて眼力。

 こっちの肝まで震え上がりそうだわ。


「父上。エベリナの処遇については進言があります」

「焦るな。現状でエベリナを裁くことはできぬ。王政での問題を全て取り除いた後だ」

「分かりました」


 私はルーファス君にかけられている容疑についても虚偽であると進言しておいた。

 国王はそれについても対処してくれると約束してくれた。

 

 とりあえず、私の戦いはひと段落ついたと判断していいだろう。

 そう思ったら疲れが一気に吹き出して膝から崩れ落ちてしまう。

 ああ、頭が痛い。

 意識が遠のく。

 流石に無茶しすぎたかも……。


 薄れゆく意識の中で微かに浮かんだのは彼のことだった。

 ルーファス君。

 貴方なら絶対にティナちゃんを救うことができるわ。

 なんたって、賢者である私の弟弟子なんだから。

 

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