第94話 勇者パーティーの栄光⑤
コルト大臣はあっさりと見つかった。
王城をちょっと進んだらすぐに背中を捉えることができてしまった。
大した運動してない弊害ね。
あまりにも動きが鈍い。
「扇動しておいて、いざ危険となったら逃げるなんていい性格しているわね」
背中に向かって声をかける。
「大して働いていない税金泥棒共を働かせて何が悪い?」
「辛辣ね。そんなにこの国が嫌い?」
言葉に反応して、コルト大臣は立ち止まってこちらに正面を向ける。
滝のような汗を流し、整えられていた髪は乱れていた。
ちょっと城内を走っただけで随分な老けようだ。
彼の瞳には怒りがあった。
あまりの威圧感に、少しだけ圧されてしまう。
「逆だ! この国を愛しているからこそ、私は四皇将も兼任しているのだ。なぜか分かるか? 魔王軍の過度な侵攻を抑制し国を守りつつ、国に危機感を煽ることによって更なる発展を促す! この国が未だ魔王軍によって滅ぼされていないのは誰のおかげか!」
熱弁だ。
まるで魂を燃やしながら話しているようだった。
これを普通の人が聞いていたら心揺さぶられてしまうだろう。
「因みに聞きたいんだけど、オスニエルたちを殺そうとした理由は?」
「あんな馬鹿が玉座を継ぐなど我慢ならなかったからだ! 断言してもいいが、アレが王になったらこの国は確実に衰退し滅亡する!」
あー、なるほどね。
なるほど。
なるほど。
「その気持ちはよく分かるわ。確かに馬鹿王子が王になったら国は崩壊するかもしれないわね」
「分かっているじゃないか。分かっているのに……なぜ、帰還させたのだ!? 貴様は間接的に国を滅ぼすんだ!」
何たる責任転嫁。
これは流石に酷い……。
「貴様も! ルーファス・ファーカーも! そして、全ての元凶である賢老! 貴様らの系譜は今すぐに根絶されるべきだ!」
お、おお……物凄い言われようなんだけど。
しかも、一番熱がこもっている。
相当、私たちにご立腹のようだ。
「分かった……貴方の言っていることはよく分かったわ。でも、一つだけ間違っている」
「なに?」
「オスニエルは立派な王になる。──その可能性は十分にあるわ」
「は?」
面白いくらいにポカンと口を開けるコルト大臣。
予想通りの反応だ。
きっと数ヶ月前の私が聞いても同じ反応をするだろう。
まぁ、いくら口で言っても理解できないだろうから、この話はここでやめておこう。
「貴方が熱烈な愛国者ということは十分に理解できた。愛しているからこそ四皇将にまでなった、と」
「そうだ! これも全ては国のためだ! 国のためだ!」
コルト大臣は叫びながら再び走り出す。
と思ったら、少し進んだところにあった部屋に入っていく。
必死に開ける扉の荘厳さで、その部屋の正体を容易に想像することができた。
これまた面倒なところに……。
それとも計算?
コルト大臣を逃す選択肢は無いので、覚悟を決めて部屋に入る。
部屋と呼んでいいのかも怪しい広大な空間。
空間の最奥には選ばれた者しか座ることのできない椅子がある。
この場を一言で言うなら玉座の間だ。
玉座には国王が威風堂々と鎮座していた。
国王は目が眩むんじゃないかと思うほどの黄金の鎧を身につけて、玉座の側には複数の宝玉が埋め込まれた大剣が置かれていた。
国王は老人にしては鋭い眼光をコルト大臣と私に向けた。
そして、国王はゆっくりと立ち上がり大剣を手に持って、コルト大臣の元へと近付く。
「申し訳ありません、国王……。四皇将及び賢者の抵抗が想像以上に苛烈でして……」
国王の大きな手がコルト大臣の肩に置かれる。
コルト大臣を後ろに下がらせて、国王が前に出た。
「後は我に任せよ」
ああ、やっぱりそういう展開になるよね。
「賢者シェリル。まずは前に礼を言おう。我が息子たちを無事に帰還させたこと感謝する」
「それが依頼でしたから」
国王は大きく頷く。
「質問に答えよ。貴殿は魔王軍の手先か?」
「違います。魔王軍なのは貴方の後ろにいる男です。私は嵌められたんです」
「…………………」
コルト大臣は首を横に振って、困った素振りを見せる。
いつまでもシラを切れると思うなよ。
すると、国王は大剣を構える。
黄金の鎧がより一層輝きを放つ。
「言葉なぞ所詮は化かし合い。真偽は貴殿の魂に聞こう」
えぇ……じゃあ、さっきの質問はなんだったの?
ちょっと待って。
国王と戦っていいの?
これで結局、何かの罪にならないよね?
国王、やる気満々だし。
これ逃げたら、魔王軍認定されそうだし。
あー、もう!
やるしかないか。
やるしかないかぁ……。
やだなぁ。




