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第93話 勇者パーティーの栄光④


 私の登場にコルト大臣はさして顔色を変えない。

 これまで政府という戦場の中で生き抜いて来ただけあって、並大抵のことでは感情を表に出さないみたいね。

 けど、内心はどうかしら?


「シェリルゥ〜」


 イヴィーとイアンが今にも泣きそうな顔で迫ってきた。

 そうかそうか。

 二人とも私のことがそんなにも恋しかったのね。

 といっても別れてから数時間も経ってないんだけど。


 とはいえ、抱きつかれるのは阻止する。

 イアンは心は乙女だけど体は男だし、イヴィーはどさくさに紛れて変なところを触りそうだから。


 オスニエルと目が合う。


「無事で良かった」

「さっきのやつ聞いていたわ。良い答えだと思うわ」


 何も考えずに馬鹿みたいに突っ込んでいっていたオスニエルが、あんなこというとは……人って成長するものね。


「シェリル、それにエベリナ。二人が変わるきっかけを与えてくれたんだ。本当に感謝している」

「答えを見つけたのは貴方自身よ。でも、感謝はちゃんと受け取っておくわ」

「世の王は女性で身を滅ぼすというが、僕は良き女性たちに巡り会えたようだ」


 それがオスニエルの偽りのない本心だと分かっているので、エベリナは茶化すことなく艶然と微笑んでいた。


 というか、エベリナがいることに少し驚いた。

 彼女は私と同じ時にどっかに連れていかれたはず。

 じゃあ、オスニエルたちが自発的に助け出したってこと?

 なんか意外……エベリナが協力していることも意外。


「聞きましたか? 王子はあろうことか四皇将に感謝をして、出会えたことを幸福だと言っています。さらに幽閉したはずの賢者シェリルがこの場に居る……エベリナと合流を図ったのでしょう。これは彼女が魔王軍と繋がっている何よりの証拠です」


 あーあ、またなんか言ってる。

 ここに来る途中でもガチャガチャ言ってたのは聞こえていたけど、こうして直で聞くとキツイものがある。

 頑張って扇動しようとしているのが見え見え。


 現状、コルト大臣は追い詰められている。

 理由は単純で私が現れたからだ。

 ここで私を捕まえることができなければ、彼が四皇将というのが公に発覚してしまう。

 調子に乗って、バラすから悪いんだ。


 失礼、訂正する。

 コルト大臣は詰んでいる。

 私を敵に回した時点で終わりなのだ。

 

 私はオスニエル、イヴィー、イアンの顔を見る。

 最初に出会った時とは明らかに違う。

 紛い物だった勇者パーティー。

 勇者パーティーには決してなれない。

 それでも、彼らは一つのパーティーとして完成したのだ。


「敵は大臣兼四皇将及び王国戦力。対する貴方たちはたった三人と一匹。助っ人に『賢者』と『赫灼の魔女』。数的には劣勢だけど?」


 三人は笑みを浮かべた。

 それは、挑戦者の笑みだ。


「勝利する未来しかみえないな」

「目に物を見せるわ」

「見せてあげるわ、わたしたちの実力を」


 各々が戦闘態勢に入る。

 向こう側も若干の戸惑いを見せつつも武器を構える。


 数秒の沈黙の後に戦いの火蓋が切って落とされた。



×××



 特攻隊長と言わんばかりに突っ込むイヴィー。

 俊敏な動きで騎士たちを撹乱しながら攻撃を加える。

 重さは感じられない代わりに異様な鋭さを放つ斬撃。


 攻撃を剣で受け止めた騎士の表情には多少の驚きが浮かぶ。

 別の騎士がイヴィーの動きを封じようと大きく腕を広げる。

 まだ、覚悟が決まっていないのだろう。

 だから、剣を使わずに己が体で捕らえようとしている。


 騎士の腕は空気を捕らえる。

 その背後には剣を構えたイヴィー。


「────ッ!?」


 甲冑の隙間を狙って一閃。

 致命傷には至らないが、戦闘不能には十分なダメージを与える。


 他の騎士たちが一斉にイヴィーに襲いかかる。

 仲間をやられたことで覚悟を決めたようで、全員がしっかり剣を構えている。

 一斉に降りかかる斬撃。


「──カルテリコス!」


 だが、斬撃はイヴィーに届くことはない。

 詠唱の後に展開された防御壁が全てを防いだのだ。

 イヴィーを守ったイアンは続けて弱体魔術を騎士、近衛兵に向かって行使する。


 動きが一気に鈍くなる。

 戦闘時──特に対人戦時の弱体魔術は強力だ。

 喰らった方はさぞかしキツいだろう。

 魔術の練度にもよるが、今のイアンの場合だったら体に鉄球を五、六個をぶら下げているくらいの効力があるはず。


 そして、オスニエル。

 後方から私たちに的確な指示を飛ばしている。

 控えめにいって凄い。

 俯瞰して戦況を見ているかのような的確さだ。


 実際に体感して分かった。

 オスニエルの指示は痒いところに手が届くというか、とにかくやりやすい。

 

 しかも、必要最低限の指示のみで無闇に本人たちの動きを束縛していない。

 中には軍師を気取って、その都度行動を指示する奴がいるが、はっきり言って三流だ。


 気持ち良く動けることによって、パフォーマンスはどんどん上がっていく。

 軍師、指揮官として大事なのは、いかにして戦いの中で味方の能力を最大限まで引き出すか、だと思っている。


 さらに、ニケの存在だ。

 あの子によって私たちの基礎能力が底上げされている。

 だからそこ、イヴィーは騎士たちと戦えているし、イアンの魔術はしっかりと通用しているのだ。


 私もニケの効果を実感している。

 体が異様に軽いし、力が溢れている。

 魔力量も増大している気がする。

 今なら魔術の同時並行行使も最小リスクでいけそうな気がする。


 正直驚いている。

 お遊び感覚で始まったはずのパーティーがこんなにも機能するなんて。


 騎士と近衛兵は三人に任せよう。

 今の彼らならきっと大丈夫だ。


 私とエベリナは先程から動く気配を見せない黒装束の部隊へと駆ける。

 人数は少ないけど、一人一人がそこそこ実力を持っているだろう。

 精鋭部隊って感じね。


「二人で大丈夫かしら?」

「過剰戦力よ」

「あら、それは頼もしい」


 エベリナが笑みを浮かべて業火を顕現させる。

 業火は勢いよく膨れ上がり、生き物のように黒装束に襲いかかる。


 それと同時に風魔術を行使する。

 かなりの魔力を込めたので、その威力と規模は暴風というには生温い。


 業火は暴風によって、さらに勢いを増す。

 超火力となった業火は容赦無く黒装束たちを飲み込んだ。


 業火が消えた後に残ったのは黒焦げになった黒装束たちの姿だった。

 相手が私たちじゃなかったらもっと活躍できただろうに……ご愁傷様。


 で、元凶のコルト大臣の姿は綺麗さっぱり消えていた。

 逃げたわね。


「エベリナ、ここ任せていい? あの薄寒い俳優を捕まえに行くわ」

「ええ、構わないわ。彼らに協力しているもの、放っておけないわ」

「ありがとう」


 エベリナにオスニエルたちを任せて、私はコルト大臣を追うのだった。

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