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第92話 勇者パーティーの栄光③


 オスニエルたちは私が幽閉された地下牢へと向かっていた。


「さっきはごめんなさいね」

「え?」


 エベリナが突然謝罪してきたことに、イヴィーは少しだけ驚いた表情を浮かべる。


「冷たい言い方をしたわ」

「べ、別にいいわよ。同じ立場だったら、私はもっと酷いこと言ってたと思うから」

「ありがとう。これで仲直りね」


 艶然な笑みを向けられて、イヴィーは頬を赤らめる。

 相変わらず綺麗な女性には弱いようで、この非常においても変わらないようだ。

 少しだけぽわぽわしているイヴィーの前を走っていたオスニエルたちが急に動きを止める。


「どうしたの?」


 浮ついた気持ちを首を振って追い出したイヴィーは、問いを投げつつ剣に手を添えた。

 無意識か、本能か、嫌な雰囲気を感じ取っていたのだろう。


「どうにもおかしい。城内に人が居なさ過ぎる」

「もしかして、さっきの轟音が原因じゃないかしら?」


 彼らが拷問部屋から出た直後に、城内に轟いた爆発音。

 イアンはそのことを指摘しているのだ。

 因みに犯人は私。


「避難したんじゃないの?」

「その可能性もあるが……。爆発が聞こえたのは確か十分前。短時間で王城にいる全員が避難できたとは考えにくいな」


 確かに、とイヴィー、イアンが同意して、この静けさの原因を考える。


「まさか初めから? 全て仕組まれていたのか? じゃあ、父上は?」


 だが、考える時間はなかった。


 オスニエルたちの対面から無数の人影がゆっくりと近づいてきた。

 騎士団、近衛兵、黒装束部隊──様々な組織が入り乱れている。

 その中心にいる人物。

 静寂に包まれた王城で戦力を携えて現れた時点でほぼ黒確定と言っていいだろう。


「コルト大臣……」


 オスニエルの表情に驚きと無理解が浮かび上がった。

 コルト大臣は長年、国王と国を支えてきた人格者。


「ああ……願わくば誤報であることを願っていましたが……。まさか、王子が四皇将を逃そうなどという愚行を犯すとは……」


 オーバーリアクションをするコルト大臣。

 その演技は迫真と呼べるもので、涙すら流しそうな勢いだ。


「信じたくはなかった。まさか、コルト大臣が四皇将だったとは」


 彼の発言で、コルト大臣の後ろで待機していた者たちがざわつきだす。

 当然の反応だ。

 国の大臣が敵対している組織の幹部となれば、あまりにも衝撃的な展開。

 同時に大失態だ。


「みなさん、聞きましたか? あろうことか、この国に身を尽くしてきた私を四皇将などと。非常に……非常に残念ながら、王子は四皇将エベリナに誑かされてしまったようです。だから、このような愚行を……」


 一人舞台を開催しているコルト大臣。

 彼の言葉に異議を申し立てるためにエベリナが一歩前に出た。


「随分な言いようね、コルト大臣……いえ、四皇将コルト」

「初めまして四皇将エベリナ。我らの王子を弄ぶなぞ、恥を知りなさい」

「貴方、脚本のセンスは最低、演技のセンスは最悪ね」

「………………」

「それに名誉のために言っておくけど、彼を誑かすなんて死んでもありえないわ。私、男に一切興味ないの」


 突然のカミングアウトに唯一反応したのはイヴィーだった。

 エベリナはイヴィーの方に向かってウィンクをする。

 また、イヴィーの頬がポッと赤くなる。

 何やってるんだ、コイツらは?


「戯言は結構。みなさん、王子たちはすでに魔王軍の傀儡です。彼らの魂をこれ以上穢してはなりません」


 再び周りの者がざわつく。

 一切の声をあげないのは黒装束の部隊のみ。

 彼、彼女たちは顔すら隠しているので、そもそも反応しているかどうかも不明だ。


「落ち着いてください。これは鎮魂のための戦い。貴方たちは闇に染まった王子を天へと導く天使となるのです」


 コルト大臣の演説によって、騎士団と近衛兵たちが覚悟を決めて武器を構える。

 戦う以外の選択肢がないことを悟ったオスニエルは冷静な面持ちでコルト大臣を見つめる。

 その反応にコルト大臣は違和感を感じた。


「今までの王子だったら率先して前に出るところでは?」

「ああ、少し前の僕だったら考えもなく前に出ていただろう。それこそが王としてのあるべき姿だと考えていたから」


 オスニエルは目を閉じて、胸に手を当てる。


「それも正解だろう。でも、僕はそういう王には決してなれない」

「ほほう。では、王子が目指すべき王とは?」


 コルト大臣の問い。

 オスニエルはゆっくりと目を開き、自分が見つけた答えを言葉にした。


「民の安寧と繁栄を築くために誰よりも行く末を見据え、多くの血を見る覚悟を持った者──それが僕が辿り着くべき王の在り方だ!」


 その瞬間、咆哮が城内に響き渡った。

 咆哮の主はオスニエルの近くにいた召喚獣だ。

 咆哮を終えたあと、ニケは身軽にオスニエルの体を登り肩に乗った。


「ニケ……」

「ガウッ」


 ニケはオスニエルが自分と共に戦う者としてふさわしいと認めたのだ。

 それはオスニエルたちにとっては起死回生の出来事。

 だが、起死回生……いや、奇跡はそれだけに止まらない。


 一触即発の場に新たな参戦者が現れる。

 コルト大臣は苦虫を噛み潰したような表情をする。

 オスニエル、イヴィー、イアンは歓喜の笑みを浮かべ、エベリナは艶やかに笑う。


 絹を束ねたかのような銀色の髪。

 青い瞳はどこまでも澄んでいる。

 誰もがその美貌を賞賛し、絶賛する。

 あらゆる魔術、武術に精通し、知識の幅も大河のように広く深い。

 才色兼備、才女、美女。

 その人物のことを人々はこう呼ぶ──賢者と。


 そう、つまりこの私がやって来たのだ。

 私はニヤつきながら、手をひらひらと振る。


「──また会ったわね。コルト四皇将さん?」


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