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第91話 勇者パーティーの栄光②


 王子の力というものは凄まじい。

 特に王城内では大抵のわがままが通るくらいだ。

 仕えている人たちにとっては目上の存在。

 例え年下であっても身分は圧倒的に上ということで逆らうことはできない。


 まぁ、身分に甘えに甘えた結果、オスニエルのような馬鹿が生まれてしまうのだろう。

 個人的な意見だが、二世というのは馬鹿が多い。

 何もできないくせに態度だけはデカい。

 そういうのをこれまでに何度も見てきた。

 叱る人間は必要だとつくづく思う。


 話が逸れてしまった。

 要は王子という肩書きは相当な力があるということ。

 オスニエルは、その力を使って拷問部屋に監禁されているエベリナと接触することができた。

 さらには話を聞かれないために兵を一人残らず捌けさせる。

 文句を言う者は誰もいなかった。


 薄暗い部屋。

 あらゆるところに赤黒い染みがべっとりついていて、壁には様々な拷問器具が吊り下げられている。

 雰囲気は気分が悪くなるほどに淀んでいる。


 ポツンとある古びた椅子。

 そこにエベリナは座っていた。

 両手足には拘束具で縛られており、身動きができそうにない。

 彼女は部屋に入ってきたオスニエルたちを見て艶然に笑う。


「あら、随分と見覚えのある拷問官が来たのものね」

「君に聞きたいことがある」


 エベリナの冗談を完全に無視して、王城で起こった出来事や魔王の件について話し始める。

 全てを聞き終えたエベリナは艶やかに息を吐く。

 拘束されているというのに安定した優雅さを保っている。


「なるほどね。外は面白いことになっているわね」

「僕たちの疑問に答えてほしい」


 オスニエルたちが抱えている疑問。

 ルーファスは魔王軍なのか?

 彼の妹は魔王で確定なのか?


「取引しましょう。私は貴方たちの疑問への答えを提供するわ」

「こちらは何をすればいい?」

「無罪放免、実刑も情状酌量も無し。完璧な無罪放免を要求するわ」


 相当ふっかけて来たな、と後で聞いた時に思った。

 エベリナの立場的に死刑は免れない。

 それを私は四皇将捕縛の功績を最大限に利用して、死刑を回避させようと考えていた。

 限界が死刑回避だと思っていたのだ。


 それを、あろうことか無罪放免を要求とは。

 協力する気がないのではとすら感じてしまう。

 まぁ、おおよそ相手がオスニエルだから強く出たのだろう。


「ちょっと、アンタ何言ってんの!? 四皇将が無罪放免なんて無理に決まっているでしょ!」

「無理なんて決めつけは良くないわ。それに交渉しているのは彼なのだから、貴女は静かにしてて」


 イヴィーは言い返そうとしたが、言葉が出ずに唇を噛みしめる。

 彼女の反応に特に関心を示さずにエベリナはオスニエルを見つめる。

 オスニエルは顎に手を当てて考える。


「正直難しいな。だが、こちらの追加条件を飲んでくれたら全力を尽くそう」

「あら、思ったよりもあっさり承諾してくれるのね。追加条件って?」

「僕たちに力を貸してほしい。シェリルを助け出したいんだ」

「三人で助け出したらどうかしら? 勇者パーティーなのでしょう?」


 エベリナの挑発的な問いに対して、オスニエルは表情を一つ変えずに彼女を縛り付けている拘束具を外し始めた。

 予想外の行動だったようで、エベリナは面食らう。

 

「僕たちは勇者パーティーなんかじゃない。僕は……勇者なんかじゃない。現実を何も知らないただの愚か者だった。そのせいで何度も間違いを犯してきた。……だから、もう間違えたくない」

「………………」

「シェリルを助け出そうとしたら必ず邪魔が入る。僕たちでは圧倒的に力不足だ」


 拘束具を外し終えてからオスニエルはエベリナの前に立って深々と頭を下げた。


「だから、シェリルが認めていた実力を貸してほしい」


 四皇将という肩書きが故ではない。

 個人として、エベリナとしての実力を信頼しての懇願。

 エベリナは小さく笑う。


「──取引成立よ。協力しましょう」

「感謝する」


 エベリナは立ち上がって軽く体を伸ばす。

 それから自分の状態を確認。

 弱体化している状態でどの程度の実力を発揮できるのか確かめていたのだろう。

 確認し終えてから、エベリナはオスニエルたちの疑問の答えを述べた。


「ルーファス君だったかしら? 彼と魔王軍に繋がりはないわ。それどころか魔王様が名指しするほど敵対していたもの。シェリルに関しても警戒はしていた様子はあったわ。ほら彼女、賢者だから」

「そうなのね。でも、ちょっと待って。だとしたらルーファスの妹ちゃんが魔王っておかしいんじゃないかしら?」


 イアンの疑問にイヴィーも同意する。


「ほんの少ししか見てないけど、信じられないくらいに仲良かったわよ。あの二人が敵対って……ちょっと考えられない」


 それに関して、エベリナは頬に手を当てながら言う。


「魔王様は男性よ。ルーファス君の妹がなぜ魔王を騙っていたのかは、私にも分からないわ。操られていたりしたんじゃないかしら?」

「現状では知る術はないから彼女の件は置いておこう。ルーファスと魔王が敵対関係にあった事実が知れたのは大きい」


 オスニエルはエベリナの話を聞いて、私が魔王軍となんの繋がりもないと納得したようだ。


「ついでに魔王軍の追っ手が来なかった理由を教えてあげるわ」

「懐に潜り込んでメチャクチャにする計画だったとか言わないわよね?」

「あぁ、そういうやり方もあったわね。でも、残念だけど違うわ。理由としては私が王国の手に落ちても問題ないからよ」


 オスニエルがハッとして問いを投げる。


「それは戦力的な意味合いなのか? それとも王国内に魔王軍が潜伏していて、いつでも君を助けられるということなのか?」

「あら、自分以外を見るようになったら、随分と頭が回るようになったのね。答えは後者よ。どうせすぐに分かると思うから言ってしまうけど、潜伏しているのは四皇将の一人。確か大臣を務めているはずよ」


 エベリナの提示した情報に三人が驚愕する。


「大臣が四皇将……?」

「そんな、ありえない。まさか……パパだったりする?」

「シェリルの件で父上が聞く耳を持たなかったのはそういうことか」


 事実にショックを受けていた三人だが、少ししたら落ち着きを取り戻す。

 その面持ちは覚悟を決めた人間だけが見せるものだ。


「敵が誰でもいいわ。シェリルを助ける目的はかわらないもの」

「イヴィーの言う通りね! もしパパだったら、殴ってでも改心させてやるんだから!」

「そうだ、僕たちのやることは一つだ」


 こうして、オスニエルたちはエベリナを加えて私を救出しようとするのだった。


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