第90話 勇者パーティーの栄光①
ここからは私──シェリルがのちに聞いた話を語っていく。
よって細部に差異、個人的感想があるかもしれないがご了承願いたい。
×××
私が近衛兵たちによって王城の地下牢に幽閉されていた頃。
イヴィーとイアンの二人は国王と話をしているオスニエルを待っていた。
壁に背中を預けて腕を組んでいるイヴィーは誰が見ても苛立っている。
話しかけただけでも激怒されそうな勢いだ。
イアンは未だに状況を理解できないようで頭を抱えていた。
その表情は不安と心配で染まっている。
二人とも何が起こったのか分かっていない。
不理解な現実があるだけ。
納得など当然出来るはずもない。
「どうなってんの? シェリルが国家反逆罪ってありえない」
「きっと何かの間違いよ。すぐに解放されるわ」
しばらくの沈黙。
二人とも話す気分ではない。
それから少ししてオスニエルが謁見の間から出てきた。
二人は詰め寄るが、彼の暗い表情で全てを察した。
「国王はなんて言ってるの?」
「シェリルには国家反逆の疑いがある。身の潔白が証明されるまでは決して出さない、と」
「アンタ、ちゃんと伝えたんでしょうね! これまでの旅のことを!」
怒りの形相を浮かべるイヴィー。
これまでの旅路で私がいかにしてオスニエルたちを守ってきたか。
大体、国家反逆を企てていたのなら旅の途中でオスニエルたちを見殺しにしてしまえばいい話だ。
「もちろん説明した。だが、父上は聞く耳を持たない」
「理由は? どうしてシェリルを疑うにようになったかの理由は?」
「それも教えてもらえなかった。だが、どうやら魔王軍絡みのようだ」
「魔王軍? シェリルが魔王軍と繋がっているって国王様は考えているの?」
「バカじゃないの!? そうだったらエベリナをここまで連れてこないでしょ!」
イヴィーの怒号が王城中に響き渡る。
それに対して、オスニエルは冷静さを保ち顎に手を添えて思案する。
自分のことだけを考えるという悪癖から脱却しつつある彼をニケは観察するように見つめていた。
「イヴィー、怒らないで聞いて欲しい」
「何よ?」
「僕はシェリルが魔王軍と繋がっている可能性があると思う」
オスニエルの発言を聞いたイヴィーは顔を真っ赤にして、怒りのあまり腰に差してある剣に手をかける。
すぐに剣を引き抜かなかったのは、かろうじて理性が残っていた証拠である。
「いい加減にしなさいよ! アンタ、シェリルの何を見てきたの!? もしかして後衛に下げられたことをまだ根に持ってるの!?」
「それは違う。最初こそ不服だったが、君が前衛で戦っている姿を見たら納得した。僕には前衛は務まらないと」
イヴィーより若干冷静さを保っているイアンが問いかける。
しかし、杖を握る力は強く、微かに震えていた。
彼の怒りがひしひしと伝わってくる。
「根拠を教えて、オスニエル」
「ああ、理由はいくつかある。一つは魔王軍の追っ手が来なかったことだ」
エベリナを捉えた時から危惧していた追っ手はついに現れることはなかった。
それはオスニエルたちにとっては喜ばしいことだ。
しかし、その事実はある種の可能性を示唆している。
「もし、エベリナを王都に侵入させるのが魔王軍の目的だとしたら? 外から壊すより懐に潜り込んで壊した方が効率が良い」
「ちょっと待って。それってシェリルとエベリナが戦ったのも演技って言いたいの? 流石にそれは無理があるわ。だってあの時は二人とも本気だったじゃない」
「果たしてそうだろうか? 僕たちははっきり言って未熟もいいところだ。比べてシェリルとエベリナの強さは僕たちの遥か彼方。本気かどうかも判断できるか怪しい」
「そう言われると……」
客観的な意見を述べて、イアンを半ば納得させるオスニエル。
ていうか、本当にオスニエルなの?
めちゃくちゃ真面目なこと言っていて怖いんだけど。
途中から別人に入れ替わってない?
「だが、今言ったのは補強程度の理由だ」
「じゃあ、早く本命を言いなさいよ」
オスニエルは一回俯いてから、覚悟を決めたように顔を上げて二人に言う。
「僕はセラピアで魔王と会っている」
「なっ!?」
「嘘っ!?」
突然の告白に驚愕する二人。
予想通りの反応だ、と言わんばかりの表情でオスニエルは続ける。
「僕が憎しみに支配されていた時に魔王に出会った。そして、奴の甘言に乗ってしまい暗黒の鎧を纏うことになったんだ」
「それは何となく聞いていたけど、それがシェリルの件とどう繋がるっていうの?」
「魔王の声を聞いた。僕はその声に聞き覚えがあったんだ。今の今まで勘違いだと思っていたが、どうやら勘違いではなかった」
オスニエルは一旦言葉を区切って、核心に触れる一言を口にした。
「──ルーファスの妹。彼女が魔王だ」
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衝撃の発言にイヴィーとイアンは開いた口が塞がらない。
「ルーファスの妹って……ティナちゃんよね? 黒髪で小ちゃくて可愛い」
「いや、それは……」
「信じられないのは僕も同じだ。声は同じだったが、口調や威圧感は別物だった。しかし、彼女が魔王なら辻褄が合うんだ」
「シェリルはルーファスの姉弟子、ルーファスはティナちゃんの妹。確かに繋がりはある……ってことはルーファスも?」
オスニエルは頷く。
「だが、あくまでも可能性の話だ。正直、僕はシェリル……それにルーファスが魔王軍側だとはとても考えられない。だから、真実を知っている人物に会いにいく」
「それって」
「ああ、エベリナだ。彼女なら答えを知っているはず」
「でも、わたしたちだけで行って大丈夫かしら?」
「そこは問題ないはずだ。シェリルの弱体魔術はまだ効力を失っていないはず。故に彼女は当分満足に力を振るえないだろう。何のアクションも起こしてないのが証拠だ」
三人は顔を見合わせてから頷く。
そして、彼らはエベリナが叩き込まれた拷問部屋へと向かうのだった。




