第9話 龍の試練
「なにこれ……?」
俺たちが鉱石採取のスポットに到着した時、そこは戦場と化していた。
傷を負って倒れている冒険者に駆け寄る。
「おい! 大丈夫か?」
「お、おお……ルーファスか」
「待ってろ、回復魔術をかけてやる」
「それはやめてくれ……本当に死んじまう……お前のは回復魔術って名前の殺人魔術なんだぞ」
「それだけ喋れるなら大丈夫だな」
俺は持っていた薬草を取り出す。
「使ってくれ。少しは楽になる」
「助かるぜ……」
「一体何があったんだ?」
「あの女……ヤベェぞ。気をつけろ……」
「女?」
冒険者が指差す方向。
はたしてそこには一人の女性が仁王立ちしていた。
眩しい金髪をなびかせる美女だ。
鋭い赤色の瞳、スッと通った鼻、笑みを浮かべる唇は黄金比で顔に収まっている。
黒いドレスのような服を着ていて、尻尾……だよな?
黒い尻尾が生えていた。
その美女は俺を見て、笑みを深めた。
「待っていたぞ、ルーファス」
なぜ俺の名を知っているんだ?
セラフィに冒険者を任せて、俺は金髪美女と向き合う。
「お前は誰だ?」
「誰じゃと? なんと薄情な奴よのお。その加護を下賜してやったというのに」
「何のことだ?」
「まあ良いわ。我が名はヴァロスラヴァ、偉大なる龍である」
龍って確か何千年も生きたドラゴンのことを言うんだよな。
目の前の美女がドラゴン……?
「信じられるか。人の形をした龍がどこにいる?」
「たわけ。貴様ら人間の尺度に合わせてやっておるのだ。力はかなり制限されてしまうが丁度良い枷じゃ。感謝せい」
いまいち納得はできないが龍には変身能力があるらしい。
というか、さっき言った加護って……。
「イアンが持ってた『龍の加護』か」
「イアン? ああ、あの雑兵か。しかし、いくら雑魚とはいえワシの加護の一部を譲渡してやるとは貴様は度を越したお人好しか?」
「譲渡だと?」
一体何を言っているんだ?
イアンは『龍の加護』を持っているから勇者パーティーに任命されたはずだ。
「まあ、加護は貴様の元に戻っておるゆえどうでも良い」
どうでもいいのかよ。
「じゃあ、お前の目的なんだ?」
俺の問いにヴァロスラヴァが歯を鳴らす。
その笑みは凶暴だ。
「貴様は魔王討伐という大義から逃亡した。それゆえにワシの加護を下賜するに値するか疑問に思ったわけじゃ。考えた末に実際に確かめることにしたというわけよ」
「確かめる?」
「要は試練じゃ。ワシに膝をつかせてみせろ。そうすれば加護は剥奪しないでおいてやろう」
この美女の話は色々と疑問がある。
その試練に挑む理由は正直言ってない。
なぜなら加護はイアンのものだ。
きっと、俺とイアンを間違えているのだろう。
しかし、だ。
俺は傷付く冒険者たちを一瞥しながら問いを投げた。
「なぜ、みんなを傷つけた?」
「貴様を待つ間の暇潰しに試練を与えたまでじゃ。ワシは試練を与えるのが大好きでのお」
よし、腹は決まった。
「ティナ、セラフィ。みんなの救護を頼む」
「はい、お兄様」
「分かった。でも、ルーファスは……」
不安そうな声をこぼすセラフィ。
俺は彼女を安心させるように言う。
「大丈夫。危険だと思ったらすぐ逃げるから」
ヴァロスラヴァが笑い声をあげる。
「グゥハハハハハッ! 逃げ癖でもついたようじゃな! じゃが、ワシから逃げ切れると思うな!」
俺は杖を構える。
先手必勝。
魔術詠唱をする。
「──ケラヴノス!!」
展開された術式を介して、魔力が凄まじい雷となりヴァロスラヴァへと襲いかかる。
一切避ける様子を見せずに金髪美女は腕を大きく広げる。
直撃。
青白い輝きがヴァロスラヴァを包み込む。
雷が収まると傷一つないヴァロスラヴァの姿が見えた。
正直驚いた。
魔術の威力には自負がある。
傷一つ付けられないなんて初めてのことだった。
「良い一撃だ。だが、ワシには効ぬ……効かぬぞ!! グゥハハハハハハ────!!」
これはマズイかもしれない…………。




