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第89話 さらなる真実


 手記を読み終えて、俺は呆然としてしまった。

 内容があまりにも衝撃的すぎた。

 ティナの正体どころか魔王の正体すら明らかになった。


 ふざけやがって、変態野郎が。

 相手が叔父だからって関係ない。

 俺の大切な妹を弄んだことを後悔させてやる。


「というか、こんなにも身内が出てくるとは思わなかった」


 セラフィは何となく分かるけど、ヴァリスとプネブマは予想外だった。

 しかし、二人はさも当然といった顔をしている。

 確かに思い返してみれば、初対面の時点で二人は俺のことを知っているようだったし。


「あのさ、ちょっといい?」


 プネブマがゆったりと手を挙げた。


「ちゃんティーのことで異議申し立てしたいっていうか〜、ちゃんルーのパピーにはあれなんだけどさ。いやさ、大部分はマジ的確って感じなんだけど」

「確かにの。随分と的外れな結論を出すもんじゃ」


 プネブマ、ヴァリスの二人からすると父さんの導き出した結論に納得していないみたいだ。


「二人の考えを教えて欲しい」


 正直、ティナはティナ。

 俺の最愛の妹という点だけは決して揺るがない。

 しかし、正体というのは気になるところだ。


「ぶっちゃけると初っ端からあの子なんじゃね? って思ってたり」

「あんな訳わからん移動方法を使える奴などアイツ以外存在せんじゃろ」

「マジそれ。つか、ちゃんヴァリも同意とか確定じゃん」


 二人だけでめちゃくちゃ盛り上がっているんだけど。

 こちら側は何一つ分からないんだが。

 セラフィはキョトンとして、フェリシアは微笑みながらヴァリスとプネブマを眺めている。


「なぁ、そろそろ教えてくれないか?」


 痺れを切らして、二人の会話に割って入る。

 その甲斐もあってようやく二人は答えを教えてくれた。


「──妖精王。それがティナの正体じゃ」

「妖精王……?」


 思わず聞き返すとヴァリスとプネブマは首肯する。


「ガチ目に言うと元妖精王って感じ」

「様々な生を謳歌したい、などと嘯きおって自らの肉体と記憶を放棄し、転生を繰り返しておる戯けた奴じゃ」

「ノリで話してんのかと思ったらマジでやっちゃったから度肝抜かれたって訳。まさかちゃんティーになってるとかウケ過ぎ、腹筋崩壊案件なんですけど」

「邂逅なぞ永劫にないと思っておったからの。偉大なるワシも些か驚愕したわ」


 そうだったのか。

 妖精王、妖精王か。


 というか、今の話的に父さんの仮説はある意味では真相に最も近かったのでは?


 うーん、にしても……。

 妖精王、龍、大精霊、ノーライフキング、幻獣。

 とんでもない面子に囲まれたものだ。



×××



 ティナの正体に対する驚きもある程度落ち着いたところで、ティナ奪還について話し合いを始めることにした。


「敵はティナを弄ぶ変態野郎であり魔王」

「なんか現実とは思えないな。魔王がルーファスの親戚だなんて。待って、私たち魔王と戦うんだよね?」


 現実に直面してセラフィは体を恐怖で震わせる。

 怖くなるのは当たり前だ。

 俺だって、普通の状態であれば怖いに決まっている。

 だが、今は恐怖よりも怒りの方が強い。


 セラフィには安全なところにいてもらいたい。

 出来れば帰りを待っていてほしい。

 だが、今回ばかりは……。


 ティナを救う方法。

 絵空事、不可能とまで書かれていた必要条件を信じられないことにセラフィが満たしていたのだ。

 そこの部分を読んでいた時は冗談抜きで震えた。

 ヴァリスとプネブマも驚いたというか、もはや引いていた。


「ワシらの中で最も異常なのはセラフィじゃ。人間の範疇を超えておる。世界の一つや二つ簡単に滅ぼせるじゃろ」

「ガチで因果とか運命操ってんじゃね? ぶっちゃけ人間にここまで畏怖ったの初めてだわ。ちゃんセラ、マジリスペクトでガクブルってる」


 超常存在二人に恐れられてしまったセラフィ。

 まぁ、正直気持ちは分かる……。


 俺はセラフィの前に立って頭を下げる。


「セラフィ、俺と一緒に来てほしい」

「…………」

「必ず守る、絶対に傷つけさせない。だから……」


 セラフィは拳をギュッと握りしめて、真剣な表情で言い放つ。


「駄目だって言われても、私は付いていくつもりだったよ」

「────っ。セラフィ……」

「魔王が相手なんて怖いよ。でも、それ以上にティナちゃんを救いたい! 私にしかできないなら、行かないなんて選択肢はない! 絶対に付いていくから!」


 目頭が熱くなる。

 俺はセラフィを見誤っていた。

 彼女は心優しいだけじゃない、とても強い。

 俺なんかよりもずっと強い。


「ありがとう。俺はセラフィと出会えて幸せだ」

「えっ!? あっ、うん……私も……」


 言い切った後に自分がかなり大胆なことを言っていることに気づいて、顔が物凄く熱くなった。

 このどうしようもない恥ずかしさを搔き消すために話を先に進めることにした。


「え、えっと……あれだ。魔王の居場所を突き止めないと」


 魔王の拠点は今現在も明らかになっていない。

 霧に包まれた廃城。

 絶海の孤島。

 天空にあるとか噂だけならいくらでも出てくる。


 拠点を見つけるだけで膨大な時間を必要とするかもしれない。

 そんな時間はない。

 一秒でも早くティナを助けたい。

 何かしら方法がないかと考えていると、フェリシアが勢いよく手を挙げる。


「はいはーい。それはお母さんに任せて」

「任せるって……頼れるなら是非とも頼りたいところだけど」


 フェリシアは腰に手を当てて胸を大きく張る。

 凄い自信だ。

 こういう時のフェリシアは本当に頼りになるから期待感が半端ない。


「方法はとっても簡単。空間制御魔術でこことティナちゃんのいる場所を繋げるわ。そうすれば徒歩一歩で目的地よ」

「いや……それができるなら助かるんだが。そもそもティナがどこにいるかが……」

「それは大丈夫よ。ティナちゃんがどこにいるかは把握しているわ」

「え?」

「ティナちゃんの魔力をさっき見つけたわ。とっても遠い所にあるけど完璧に捉えたから安心して」


 見つけたって……嘘だろ?

 どういう原理で見つけたのか本当に分からない。

 ヴァリスやプネブマに視線を向けると二人とも首を横に振った。


「お母さん……凄い……」

「命よりも大切な我が子を取られて黙っていられないもの」


 フェリシアは激怒していた。

 そんな彼女を見るのは初めてだった。

 悪魔すら飲み込んだ母性は常識や物理法則をいとも簡単に捻じ曲げるようだ。


 全ての問題をあっさりとクリアして、魔王の元に向かうだけとなった時。


 凄まじい勢いで玄関がノックされた。

 来訪者は相当焦っているようで、ノックの勢いがどんどん激しくなる。

 只事ではないと思い、俺たちはすぐに玄関に向かった。


 そこに居たのは冷や汗を流す冒険者仲間の一人。


「どうしたんだ?」

「うおぉあ!? ル、ルーファス!? お、お前、いつの間に戻ってたんだ!?」

「そんなこと後でいいだろう。何があったんだ?」


 ハッとして冒険者仲間は焦りながら早口で言う。


「プ、プネブマを! 町の人が、冒険者がバタバタ倒れていって! 龍……すげぇ、不気味な龍が襲ってきたんだ!」

「龍だと……こんな時に……」


 いや、このタイミングでの襲撃は間違いなく魔王軍だ。


「おい貴様、龍と言ったか?」

「おお、ヴァリス! そうなんだよ! 龍なんだ、龍!」


 それを聞いた瞬間、ヴァリスの全身から闘気のようなものが一気に吹き出す。

 金色の髪が激しくなびいて、赤色の瞳が輝き、歯を激しく鳴らし、黒い尻尾を振り乱す。


「ルーファス、ここはワシに任せろ」

「いいのか?」

「貴様らがいると邪魔じゃ。龍同士の潰し合いに人間が立ち入る隙があるわけがなかろう」


 それはきっと本心なのだろう。

 でも、俺に気を遣って言ってくれたようにも思ってしまった。


 プネブマが戦闘態勢になっているヴァリスの隣に立つ。


「ウチも残るわ。ちゃんティーも心配だけど、助け求められて見過ごせないっしょ」


 ヴァリスとプネブマ。

 強力な二人を失うのは心細いといったら嘘になる。

 だが、この町に襲来している危機も放ってはおけない。


「分かった。ヴァリス、プネブマ、ここは任せた」

「おう、さっさとティナを連れて帰ってこい」

「完全勝利報告よろ〜」


 この町の危機を二人に任せて、セラフィとリビングに向かう。

 フェリシアは空間制御魔術を行使していた。


 空間が大きく歪み、全く別の空間と繋がっていた。

 別空間は見た感じ石造りで禍々しい雰囲気を漂わせていた。

 この先にティナがいる。


「お母さんは空間が閉じないように調整するから一緒には行けないわ。……ティナちゃんをお願いね」

「分かった。必ず連れて帰るよ」


 フェリシアと約束を交わす。

 それからセラフィと彼女が先ほど顕現させたラピスに視線を向ける。

 セラフィは力強く頷く。

 それに反応して、ラピスが鳴き声をあげて瑠璃色の炎を燃え上がらせた。


「行こう、ルーファス!」

「ああ、行こう!」


 俺とセラフィは決戦の地へ足を踏み入れた──。


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