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第86話 するべき行動


「魔王? 冗談にしては面白くないわね」


 ティナの姿をした誰かの告白に呆然とする俺を守るように前に立つシェリル姉さん。

 表情は分からないが口調は怒りに満ちていた。


「冗談などではない。我の口から語られることこそが真実だ」

「これ以上ティナちゃんを侮辱するな、外道が!」

「はっ、賢者というのもたかが知れている。この肉体は紛れもなく貴様らがティナと呼称しているものだ」


 嘲笑を浮かべながら、こめかみをつつくティナ。

 後ろからでも分かるくらいにシェリル姉さんは激怒しているが、攻撃をするそぶりは見えない。

 当然だ。

 攻撃できるわけがない。


「ふんっ、もう要は済んだ。後は任せたぞ、コルト」

「承知致しました」


 一瞬にしてティナの姿が消える。

 それは間違いなく空間跳躍だ。

 そんな……そんな……嘘だ……嘘だと言ってくれ。


「さて、これからどうしましょうか?」

「もちろん敵対するなら大臣と言えど容赦しないわ。それ以前に貴方、本当に大臣なの?」

「正真正銘の大臣だ。が、それは一つの側面に過ぎない」


 コルト大臣は両手を大きく広げた。

 すると、どこからともなく黒い服装に身を包んだ者が無数に出現した。

 完全に囲まれている。


 驚愕するシェリル姉さん。

 その顔を愉悦に満ちた面持ちで眺めながら卑しく呟く。


「我ながら才覚に溢れていると思う。大臣をしつつ四皇将も兼任できる者などそうそういないだろう」

「四皇将ですって!?」


 コルト大臣が急に俺たちを指差す。


「その顔が見たかったんだ。賢者シェリル、ルーファス・ファーカー。君たちには散々煮え湯を飲まされたからな」

「なんのこと?」

「こちらの計画を滅茶苦茶にしたわりには随分な言い方だな。分からないか? ──あの馬鹿王子たちのことだ」

「まさか……オスニエルを唆したのは……」

「その通り。死体となって帰還する予定だったはずなのに五体満足とは全く嘆かわしい」


 呆れたように首を横に振って落胆するコルト大臣。

 シェリル姉さんの怒りはさらに上がっていく。

 凄まじい魔力を練り上げて、魔術行使の機会を伺っている。


「これはこれは、とんだ悪党ね。王子の殺害を企てていたなんて……国家反逆罪の罰を受けるのは貴方の方じゃない?」

「いいや、罪は全て君たちに被ってもらう。大臣と賢者、王政がどちらの意見を信じるかは明白だろう?」

「この外道が」

「国を安定させるためなら悪にも外道にもなるさ」


 ジリジリと黒装束が俺たちに寄ってくる。

 シェリル姉さんが杖を振って、練り上げていた魔力を一気に放出する。

 轟音が響き渡り、壁に巨大な風穴を開けた。

 シェリル姉さんは俺の首根っこを掴んで風穴へと走り出す。


「絶対アンタは叩き潰す! 覚悟しておきなさい!」

「楽しみにしておこう。会う機会があればの話だがな」


 こうして、俺たちは王城から脱出するのだった。



×××



 王都の街に逃げ込む。

 ひと気のない路地裏で俺は傷の治療を受けていた。


「一気に抜くわよ。痛いと思うけど我慢して」

「頼む」


 同意を確認したシェリル姉さんは肩口に突き刺さっているナイフを掴み、一気に引き抜いた。

 神経を切り裂かれる痛みが全身に走り、傷口から血が噴き出す。


「あ゛あぁっ」


 思わず叫んでしまう。

 渋い表情を浮かべながらシェリル姉さんは回復魔術をかけてくれた。

 癒しの光が患部を包み込んで痛みが徐々に引いていく。


「ありがとう」

「いいのよ。それよりこれからどうする?」

「正直、理解が追いついてなくて……何をどうすればいいか……」

「気持ちは分かるわ。でも、私たちの立場は限りなく危うい。早急に対処しないと」


 シェリル姉さんの言い分はもっともだ。

 分かっている。

 分かっているんだが。


「ティナ……ティナ……。一体、どうなっているんだ?」


 すると、治療を終えたシェリル姉さんが俺の両頬を手で挟む。

 その表情は至って真剣だった。


「ルーファス君、現実を見て! さっき目の前で起こったことは紛れもない現実よ。そこは一旦受け入れるの。受け入れた上でどうすべきか行動をするのよ」

「どうすべきか……」

「ティナちゃんがああなったのには必ず理由があるわ」

「確かにそうだ」


 頭を必死に回転させて考える。

 記憶の中でのティナは至って普通だった。

 日常生活の中で変わった様子はなかった。

 可愛くて、礼儀正しい、優しい女の子。

 世界最高の妹。

 

 しかし、それは俺が知る限りの話だ。

 俺が知らなくても、何か変化、異常があるとしたらみんなが教えてくれたはず。

 だが、そんな話は聞いたことがない。


 急にあんな風になるはずはない筈だ。

 何かしらの兆候があって然るべきだ。


 となると、可能性があるのは。

 俺が勇者パーティーにいた時、ティナが一人で暮らしていた時。

 いや、それならセラフィが教えてくれるだろう。

 それに冒険者仲間とも仲良くやっていたようだし。


 なら、もっと遡って……。

 そうなると知っている人物は一人に限られる。


「……メイナードに話を聞きにいく」

「分かった。……一人でも大丈夫?」

「ああ、大丈夫。シェリル姉さんのおかげで大分落ち着いた」


 少し心配そうな顔をするも、シェリル姉さんは首を振ってから力強く頷いた。


「ティナちゃんの方は任せるわ。私はあの外道大臣を叩き潰す」

「気をつけてな」

「私を誰だと思っているの? 最強の賢者よ」

「そうだったな」

「そっちも気をつけて」

「ありがとう」


 俺とシェリル姉さんは互いに手を叩き合わせてから、それぞれの戦場へと向かうのだった。


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