表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/105

第84話 終わりの始まり

 

 それは最愛の妹であるティナとギルドの館内に入った時の違和感から始まった。

 いつも賑わっているギルドだが、今日は様子が些か異なっていた。

 全体的に負の感情……怒りが渦巻いているのだ。

 その証拠にあちこちから怒号が聞こえてくる。

 俺は疑問に思い、近くにいた冒険者に声をかける。


「なぁ、何かあったのか?」

「ん? ああ……ルーファス!? お前っ、なに呑気に来てんだよ! 早く逃げろ!」


 信じられないくらいの大声をあげる冒険者。

 その瞬間、ギルド内にいた全員の視線が俺に向いた。

 俺、何かしたか?


 困惑していると、冒険者たちをかき分けて数十人の騎士たちが俺の前に立った。

 騎士なんて珍しいな。

 しかも、随分と甲冑が綺麗で高価だ。

 整備が整っているのを見るに王都勤務の騎士だろうか?


「ルーファス・ファーカーだな」

「あ、ああ。そうだ」

「貴様を国家反逆罪で逮捕する」

「はぁ!?」


 俺が国家反逆罪?

 なにをどうしたらそうなるんだ?


「ちょっと待ってくれ、何かの誤解じゃないのか?」

「シラを切る気とはいい度胸だ」


 身に覚えのない罪に理解が追いついていない俺に対して、ティナが苦言を呈する。


「お兄様が国家反逆なんてありえません! 何かの間違いです!」

「告発があったんだ。ルーファス・ファーカーは魔王軍と裏で繋がり王国を陥れようとしているとな」

「一体誰がそんな妄言……っ! お兄様は魔王軍四皇将を討伐した張本人ですよ! それがどうして魔王軍と繋がっているなんてことになるんですか!?」


 瞳に涙を溜めながら反論するティナ。

 それに感化された冒険者や職員が一斉に声をあげ始めた。


「そうだ! そうだ!」

「ルーファスが魔王軍と繋がっているなんてバカバカしいぜ!」

「そんなくだらない嘘を信じるんて騎士団は間抜けしかいないのか!」

「俺たちの殺人回復術師を疑うんじゃねぇ!」


 騎士の瞳が鋭くなる。

 聞き捨てならないことを聞いた、と言いたげな口調で言う。


「殺人?」

「あ、いや……それは……」


 墓穴を掘った冒険者たちが一斉に静まり返る。

 そこは気にせずに言ってくれ!


「我々と来てもらおうか。抵抗するというなら……」


 騎士は俺を睨みつけながら厳かに言う。

 少しでも妙な動きをしたら斬る、と言わんばかりに剣に手を添えている。

 もちろん他の騎士たちもだ。


 余計な荒事はこちらとしても控えたいところ。

 大体、俺は潔白なんだ。

 ちゃんと説明すればすぐに釈放されるだろう。


「大人しくついていくよ」


 両腕をガッチリと掴まれて身動きを封じられて、大事な杖も没収されてしまった。

 連行される時、今にも泣き出しそうなティナと顔が合う。


「お兄様……」

「大丈夫。一応、みんなに伝えておいてくれ」


 その後、俺は重要参考人として王城で尋問を受けることになったのだ。



×××



 王都という場所にはいい思い出が殆どないといっていい。

 一回目は勇者パーティー発足の時に。

 二回目は現在だ。


 王都に来てから多分三日が経った。

 多分というのは時間がはっきり分からないからだ。

 朝から晩まで狭い個室で尋問を受け続けて、尋問時間以外は王城の地下牢に幽閉されている。

 食事は死なない程度。

 寝る時は冷たい地面で雑魚寝。

 もちろん毛布などは支給されない。


 地下牢は寒くてじめじめして不愉快極まりない。

 家のベッドが恋しい。

 フェリシアの料理が恋しい。

 みんなに会いたい……。


 こんな劣悪な環境で毎日毎日、強面の男に問い詰められていたら精神が持たない。

 ずっと言われていると、俺は魔王軍と繋がっているんじゃないかと思ってしまう。

 大人しく認めれば、この苦しみから解放されるのでは?

 そんな思考がここ最近ずっと渦巻いている。


 だが、もし認めたら死刑確定だろう。

 無実なのに死刑なんて意味が分からない。

 こんな理不尽で死にたくない。


 残っている理不尽への怒りで辛うじて精神を保っていた。

 とはいえ、怒りは延々に続くものではない。

 なので、別の思考を巡らせて現実から逃避している。


「誰が虚偽の告発をしたんだ? なぜ、俺が標的にされた?」


 いくら考えても分からない。

 というか、まともな思考をできるような精神状態ではない。

 だが、何かしらを考えていないとおかしくなる。

 堂々巡りだ。



×××



 それからさらに数日後。

 事態が大きく変化する出来事が起こった。

 

 思考も回らずにボンヤリと床を見ることしかできなくなっていると、隣の牢屋から声が聞こえてきた。

 恨みつらみを叫んでいるのかと思って無視した。

 だが、よく聞いてみると俺に向かって何か言っているようだった。

 で、隣を見てみたら驚いた。

 目がおかしくなったのかと思った。

 いくら目をこすっても何の変化もない。


「シェリル姉さん……?」

「やっぱりルーファス君だ」

「何でシェリル姉さんがここに?」


 質問するとシェリル姉さんは心底不愉快そうにここに来た経緯を教えてくれた。


「──で、晴れて王都に帰ってきたら国家反逆罪で牢屋行きよ。おかしいでしょ?」

「シェリル姉さんも国家反逆罪か」

「も、って、ルーファス君も?」


 俺は頷く。

 それから幽閉された経緯をかいつまんで説明する。


 シェリル姉さんはこめかみをつつき、自分の状況と照らし合わせながら俺の話を聞く。

 俺が全てを話し終えると渋い表情を浮かべる。


「これは明らかに仕組まれているわね」

「仕組まれている?」

「偶然、私たちが同じ罪で捕まると思う? 敵の意図は分からないけど……このままだと、私たちに所縁のある人たちにも危害が及ぶかもしないわね」

「────っ! そんなのダメだ!」


 シェリル姉さんはゆっくり立ち上がり、ぐーっと伸びをする。

 それから俺の方を見る。


「じゃあ、やることを一つよね」

「ああ」


 殆ど折れていた心が立ち直るのを感じた。

 シェリル姉さんとの再会は思った以上に大きい。

 彼女が来てくれなかったら……俺は全部を失っていたかもしれない。

 感謝しかないな。


「賢者である私をこんな所に叩き込んだことを後悔させるわ」

「まだ、数十分だけどな」

「数十分でも大罪よ。因みにルーファス君はどれくらいここに居たの?」

「大体五日くらいだと思う」

「…………それはよく頑張ったわね」


 かくして、俺はシェリル姉さんと敵を見つけ出すために行動を起こすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ