第83話 勇者パーティーの帰還⑫
目的地までもう一息といったところでモンスターに遭遇してしまった。
しかも、結構な強敵だ。
四足獣タイプで群れになって行動するモンスター。
取り巻きはそこまでの強さではないのだが、司令塔となるリーダー格がとにかく強い。
絶賛成長中とはいえイヴィーとイアンでは速攻で挽き肉にされてしまうだろう。
というわけで、今回は私も参戦することにした。
オスニエルはエベリナの監視をしてもらうことに。
彼はこの前の私のアドバイスを真摯に受け止めて、私たちをしっかりと見ている。
それはいいけど、エベリナにもちゃんと目を光らせておいて。
さて、意識をイヴィーとイアンに向ける。
イヴィーは私と肩を並べて戦うのがよほど嬉しいらしくてぴょんぴょん跳ねている。
イアンは安堵の表情が強い。
まぁ、気持ちは分かる。
賢者である私の参戦は勝利確定みたいなものだから。
「イアンはとにかく強化魔術だけに集中してくれればいいわ。防御とか弱体は私の方でするから」
「えぇ、分かったわ」
「イヴィーはあまり前に出ないで取り巻きを倒して。絶対にリーダー格には近付かないように。もし、目を付けられたらすぐに呼んで」
「うん! シェリルの言うことは絶対に守るわ」
「よろしい。じゃあ、行きましょうか」
私の一声で二人が臨戦態勢となる。
そして、私とイヴィーが走り出す。
その行動が開戦の意思表示だと判断して、リーダーが吠えて取り巻きが一斉に襲いかかってきた。
バラバラに向かってくるのではなく、互いの動きを確認しつつ着実に距離を詰めてくる。
「──ディナト!」
イアンの強化魔術が発動。
体の奥から力が湧いてくるのが分かる。
うん、良い感じ。
でも、これだけではイヴィーが心配なので私も強化魔術を行使する。
加えて、モンスターたちに弱体魔術も行使。
モンスターたちは急に体が重くなったことに違和感を感じているだろう。
「ああっ! これがシェリルの、魔術っ」
あの、ちょっと顔を赤らめながら言うのやめてほしいんですけど。
普通に魔術行使してるだけなのに……。
調子が狂うのを感じながら迫ってくるモンスターたちに向かって雷魔術を行使。
杖先から展開された魔法陣によって魔力が変質して、晴天の雷という奇妙な光景を生み出す。
雷撃の範囲攻撃がモンスターを一掃する。
立ち込める煙を潜り抜けて、イヴィーは立ち止まっていたモンスターに斬撃を喰らわせた。
まるで跳ねるようにモンスターを次々と斬っていくイヴィー。
取り巻きをイヴィーに任せて、私はリーダーへと直進する。
その時だった。
「シェリル! それ以上は駄目だ!」
オスニエルの大声には切羽詰まったものを感じて、私は立ち止まった。
瞬間、彼が静止を求めた理由が分かった。
伏兵だ。
視線を感じる。
数は分からないけど相当数が潜伏している。
狙っているのはイヴィーだ。
私が離れた途端に伏兵はイヴィーに襲いかかっただろう。
オスニエルの一言が無かったら面倒なことになっていた。
後で感謝をしないと。
「なかなか狡猾な手を使ってくるわね。──グラニティス」
杖を地面でつつく。
そこが起点となって大きな揺れが発生して、やがて地面が砕けて地割れが起こる。
地面が崩れたことによって統率が乱れたモンスターたちの動きが明らかに遅くなった。
「──エクリクシス」
烏合の衆となったモンスターたちへ爆発魔術をプレゼント。
大爆発を引き起こして、モンスターたちは一瞬にして灰と化した。
それはリーダーであっても逃れることのできない結末。
「シェリル──ッ!」
走ってきて、勢いよく抱きついてくるイヴィー。
強化されていなかったら押し倒されるくらいの威力でちょっと力んでしまう。
抱きついて中々離れないイヴィーを引きずりながら、オスニエルたちの所へと向かう。
「オスニエル、さっきのは助かったわ」
「ああいや、偶然、隠れているモンスターが目に入ったんだ」
「先の展開を予想していたから私を止めたんでしょ? 咄嗟にできることじゃないわ」
褒めるとオスニエルの表情が少しだけ和らいだ。
自分の一声で戦況が有利に進んだという事実が素直に嬉しそうだった。
その後、オスニエルはイヴィーとイアンに対して戦闘時に気になった点を述べ始めた。
それが面白いくらいに的確なのだ。
あまりにも正確な指摘で私たちは面食らってしまった。
「アンタ、凄いわね」
「正直驚いちゃった。とんでもない観察力ね」
「あ、ああ」
イヴィーとイアンは素直に驚く。
正直、私も驚いている。
これではっきりした。
オスニエルは絶対に前線に出て戦うタイプじゃない。
その逆。
全体を俯瞰出来る位置から指示を出して味方を勝利へと導く──軍師、統率者タイプだ。
王としての素質はしっかり持っていたって感じ。
しかも、その素質はニケと相性最高。
ちゃんと機能すればパーティーの能力が確実に跳ね上がる。
ついに、オスニエルの才能が開花した。
したけど……。
「せっかく才能が分かったのに旅は終わり。残念ねぇ」
エベリナのどこか楽しそうな声でオスニエルの表情が曇った。
そう、私たちの旅はもう終わる。
もう少し先にあるのは旅の終着点である王都なのだ。
×××
王都へと入った私たちは王城に一直線に向かった。
門前まで行くと険しい顔をした近衛兵が出迎えてくれた。
もう少し歓迎してくれてもいいのに。
すると、門前の奥から近衛兵たちがわらわらと出てきた。
「オスニエル様、イヴィー様、イアン様こちらへ!」
とんでもない怒号と共に三人は近衛兵たちに守られる。
私とエベリナは近衛兵たちに剣やら槍を向けられている。
えっと、これはどういうことなのだろうか?
私は課せられた任務──オスニエルたちを五体満足で王都に帰還させる──を完遂した上に、四皇将捕獲という実績すら持ち帰ってきた賢者。
それなのになぜ敵意を剥き出しにされてるの?
ちょっと本当に意味が分からない。
オスニエルたちに視線を向けるが、彼らも何がなんだかといった様子だ。
困惑していると他の近衛兵とは服装が若干異なり威厳のある男性が出てきた。
恐らく近衛兵の長だろう。
彼は厳かな口調で言う。
「賢者シェリル。貴殿を国家反逆罪の容疑で身柄を拘束させてもらう」
………………………………は?




