第8話 幸運の差
森を探索してから小一時間くらい経った。
これといった収穫はなく、ただ森林浴を楽しんでいる。
それでもセラフィは楽しそうだ。
歩くたびに揺れるものを横目で見ながらティナはボソリと呟く。
「とんでもない凶器です」
うん、まったくだ。
「私、ここに来るの初めてなんだ。冒険者じゃないと来れないから」
「そういえばセラフィはいつ冒険者になったんだ?」
「えっと、ルーファスが帰ってくる少し前かな」
「そうだったのか。しかし、どうして急に冒険者をやろうと思ったんだ?」
それまでのセラフィは家の手伝いをしていた。
彼女の家は飲食店で、よくティナと料理をご馳走になっていた。
俺とティナには両親が居ない。
そういうこともあり、セラフィの両親は何かと俺たちに優しくしてくれた。
質問にセラフィは少し照れながら言う。
「昔から興味はあったの。食べに来てくれる冒険者の人たちはみんな楽しそうで毎日が充実しているって感じだった。私もその充実感を味わってみたいな、なんて。不純かな?」
「いや、良い理由だと思う。人生張り合いがないとすぐに老いてしまうというからな」
「しかし、よくおじ様、おば様は許しましたね」
「正直言うと今も反対されてるの。そんな危険なことするなって」
まぁ、ごもっともな意見だな。
冒険者には常に命の危険がつきまとう。
昨日まで元気だった奴が、次の日にはモンスターの餌食になっていることだってザラだ。
それにあの夫婦にとってセラフィは大事な愛娘だ。
心配なんだろう。
「いざとなったら俺が全力で守るから安心して欲しい、と伝えておかないとな」
「あっ……ありがとう」
後で挨拶に行かないとな。
まだ帰ってきたことを報告してないし、あの店の料理も食べたい。
×××
もう少し歩いたところで、俺は二人を止めた。
「さて、ここまで適当に歩いて来たが特に収穫はなし」
「はい、お兄様。いつも通りですね」
「いつも通り?」
ティナの発言にセラフィが首を傾げた。
「俺とティナはこれまでに数回ゴールドラッシュに参加しているが、毎度毎度少ししか稼げないんだ」
「前回は他の人が100,000Gとか平気でいってるのに、ティナたちは合わせて1,500Gでしたからね」
俺とティナは何かと運が悪い。
それはステータスの幸運の低さが証明してくれている。
きっと、このまま俺やティナが主体で動いたら前と同じ結果になるだろう。
そこでだ。
「これからはセラフィが道を選んでくれ」
昔から凄まじい幸運を持っているセラフィに行く場所を決めてもらうことにした。
「私が? 直感で決めちゃってもいいならやるけど」
「むしろその方が良い。頼む」
「分かった。じゃあ、こっち!」
セラフィに決めてもらった方向を進むこと数分後。
俺たちは花畑に辿り着いた。
色鮮やかな花が咲き誇り、蝶が楽しそうに舞っていた。
「うわぁ、綺麗」
目を輝かせて感想を言うセラフィだが、俺とティナは別の意味で目を輝かせていた。
「お兄様……ここって……」
「ああ、『幻想の花園』だ」
広大な森の一画にある花畑。
辿り着くこと自体が難しく、探そうと思うと決して見つからない秘境の地。
しかし、見つけたら勝ち確定。
ここにしか咲いていない希少な花と蝶はコレクター界隈では超高額で取引されている。
なんてこった。
まさか一発で辿り着くなんて……。
セラフィの幸運はまさに規格外ということか。
「よし! 希少な花と蝶を見つけるぞ!」
「一気に億万長者です!」
「え? え?」
俺とティナは一目散に花畑に突入する。
地面にはいつくばって、目を皿のようにして探すが一向に見つからない。
「ティナ、あったか!?」
「全然見つかりません!」
「ねぇねぇ、見て。この花とっても綺麗だよ」
嬉しそうに言うセラフィの元に近付くと絶句した。
彼女が指差す花は俺たちが必死に探していた花だった。
「お、お兄様……」
震える声を出しながらティナは俺の袖を引っ張りながらセラフィを指差す。
俺は再び絶句。
セラフィの周りをずっと飛んでいる数十匹の蝶。
その全部が探していた希少な蝶だったのだ。
「これが運の差か……」
「……???」
採取を終えてから俺たちは鉱石採取に山の方へと向かった。
×××
その頃。
鉱石採取スポットにいた冒険者たちは一人残らず倒れていた。
ある者は気絶し、ある者は怪我の痛みにうめき声をあげていた。
その中で一人だけ立っている者がいた。
口元についた血を舐め取り笑う。
「さぁ、早く来るがいい。ルーファス」




