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第77話 四皇将の置き土産


 旅行から帰ってきた翌日。

 俺は早速冒険者ギルドへと向かった。

 数日間、来なかっただけなのだが懐かしさがある。


「よお! ルーファス。セラピアどうだったよ?」


 ギルドに入ると、冒険者仲間たちが俺に気づいて集まってきた。


「凄い綺麗な街だったぞ。レジャー施設も多いし、何より温泉が最高だった」

「くぅ〜いいねぇ。オレも行きてぇな」

「ルーファス! お前、混浴は入ったのか? パーティーメンバーで裸の付き合いをしたのか!?」


 冒険者仲間の一人が掴みかかる勢いで聞いてきた。

 鼻息が荒いし、妙に鼻の下が伸びている。

 絶対にふしだらなことを考えているな……。


「混浴には入ってない。というか、あることすら知らなかった」

「お前……馬鹿野郎っ! 旅行の混浴イベントは必須だろうが! 俺たちはこの旅行でお前が誰とくっつくかを予想して賭けてたんだよ!」

「はぁ? 何言ってるんだ」


 冒険者仲間たちを見ると、全員が苦笑いを浮かべながら謝罪のジェスチャーをする。

 本当にそういう賭け事好きだよな。

 これだから冒険者っていうのは。


「いや〜普通に気になるだろ。ルーファスがあの美女たちの中から誰を選ぶのか。因みにオレは手堅く一番人気のティナちゃんにしたぜ」

「なんで一番人気が妹なんだ……」

「そりゃあ、あれが兄妹の距離感かって話だよ。因みにティナちゃん、セラフィ、プネブマさん、お母さん、ヴァリスの順で人気だったぜ。まぁ、上位二人は僅差だけどな」


 うーん、そうやって提示されると不本意だが納得してしまう。

 いやいや、ティナが一番にきている時点で破綻しているだろ。


「でよぉ、結局のところルーファスは誰が好きなんだ?」

「それは……」


 普通に恥ずかしいので言い淀んでいると、タイミング良くギルドマスターのマーティンが俺を呼んでくれた。


「おー、ルーファス帰ってきたな。ちょっといいか? 話があるんだ」

「分かった。悪い、この話はまた今度な」

「あっ! 逃げやがった!」


 俺はそそくさとマーティンの方へ向かう。

 禿頭から放たれる輝きは救いの光に見えた。


「もしかしてタイミング悪かったか?」

「むしろベストタイミングだ。それで話って?」

「立ち話もなんだからな、来てくれ」


 俺はマーティンの後をついていく。

 案内されたのは前にも利用した会議室だった。

 室内には先客が居た。


「あっ」

「あ、どうも」


 白い髪と青い目、それに頭部でぴょこぴょこ動く猫耳が特徴の少女が俺に気づいて頭を下げる。

 彼女の隣では瓜二つだが黒髪の少女が机に突っ伏して寝息を立てていた。


 黒髪がモカ、白髪がルカ。

 ここのギルド職員であり、凄腕の魔術師であり、怠惰と変態の双子だ。


「よし、話を始めたいんだが……」


 椅子に腰掛けたマーティンは何とも言えない表情でモカを見る。

 モカは起きる様子が一切ない。

 ギルドマスターの表情で察したルカはモカの体を揺すり始めた。


「お姉ちゃん、起きて」

「うにゃ〜、まだ寝足りないにゃ……って、変態じゃにゃいか」

「それやめてくれ。それに本物の変態はすぐ隣にいると思うが」


 深呼吸する勢いでモカの香りを嗅いでいる変態の姿が俺には良く見える。

 すると、マーティンが咳払いをして注目を集める。


「実はお前たちに頼みたいことがあるんだ」

「ギルドマスター直々となると結構厄介な案件なのか?」


 俺の問いに対して、マーティンはがっしりした腕を組んで唸って頷く。

 そして、概要をとつとつと話し始める。


「事は三日前だ。冒険者初心者がよく修行に使う森にあるモンスターが現れた。ソイツはかなり特殊な個体で初心者では歯が立たなかった。その後、ウチの冒険者たちが討伐に出向いたが結果は惨敗。逃げ帰ってきた」

「ここの連中は雑魚だからにゃ。仕方ないにゃ」

「お前からすれば王都の冒険者も雑魚になるだろう?」

「当然にゃ」


 面白くなさそうに鼻を鳴らすモカ。

 元宮廷魔術師だから、実力は疑いようがない。

 だが、杖を鈍器として使うのはどうしても許せない。


「特殊な個体っていうのは?」

「どうやらヘルムートが作った改造モンスターのようでな」

「ヘルムートだと?」


 奴の置き土産ってことか。

 にしても、何かと縁があるな……。


「厄介なことに物理攻撃は効かない、魔術も並の火力だとダメージがないと来ている。そこで超高火力の魔術を使えるルーファス、モカと優秀な支援能力と分析力を持ち合わせているルカ。三人で改造モンスター討伐に向かって欲しい」


 初心者冒険者……いわば後輩たちの危険を排除するために改造モンスター討伐を俺は快く承諾した。

 モカ、ルカも同様に快諾した。



×××



 件の森にやって来た。

 久しぶりに足を踏み入れたが雰囲気は変わっていない。

 懐かしいな。

 俺も冒険者になりたての時はティナとよく来てたっけ。

 初心者冒険者たちのためにも早いところ改造モンスターを討伐しないとな。


「うにゃ〜、たまには自分の足で歩くのも悪くないにゃ」


 背伸びをしながらモカが呟く。

 彼女の隣ではルカが心底楽しそうに歩いている。

 尻尾がピンと上を向いていた。


「お前、四皇将の一人を倒したらしいにゃ」

「俺一人の力じゃない。みんなで倒したんだ」

「そうかにゃ。ともかく倒した事実は素直に凄いと思うにゃ」

「ありがとう」

「だから、改造モンスターの討伐はお前に任せてモカは寝ていたいにゃ」


 俺は思わず大きな溜め息をついてしまった。

 不自然に褒めるなと訝しんでいたらそういう魂胆があったのか。

 どんだけ寝ていたいんだよ。


「俺一人で倒せそうだったら、マーティンは二人を同行させないだろう」

「はにゃ〜、随分とあのハゲをかっているんだにゃ」

「色々と世話になっているし、凄腕の冒険者だからな。あと、本人の前でハゲって言わない方がいいぞ。結構悲しむから」

「モカだってそれくらいの配慮くらいできるにゃ」


 あくびを嚙み殺しながら言うモカは何一つ信用できない。

 無意識にマーティンの前で言ってそうだ。

 あー、でも、ルカが居るから大丈夫か。

 姉に関すること以外ならまともそうだから。


 そんな雑談をしつつ、俺たちは改造モンスターが目撃された場所にやって来た。

 で、件のモンスターはすぐに見つかった。


「これですか?」

「多分、これだな」


 それは一見すると巨大な球体だ。

 いや、球体というよりは楕円球と言ったほうがいい。

 よく見ると、小刻みに揺れており無機物ではないと主張している。

 半透明でうっすらと青みがかっている、この存在と俺は過去に何度か出会ったことがある。


「スライム、か」


 そう、スライムだ。

 しかし、本来のスライムとは大きさが比較にならないほどに巨大だ。

 通常サイズだと少し大きめな石程度なのだが……。


「スライムかにゃ……」


 モカはおもむろに背伸びをしてから、巨大スライムへとゆっくりと近づいていく。

 鈍器を持つように杖を構えて素振りを始める。

 杖の射程圏内に入った途端にモカの動きが明らかに変化する。


 腰を回転させて、そこから発生した力が上半身、そして腕へと伝わる。

 渾身の一振りがスライムに直撃。

 キレッキレの動きから繰り出される一撃は相当な威力を誇っているだろう。

 しかし、スライムの体は波紋が広がるだけで衝撃は殆ど吸収されてしまっていた。


 モカは攻撃の感触を確かめながらスライムから俺たちのところへと戻ってくる。


「確かに物理攻撃は無意味っぽいにゃ」

「確認するのは大事だ。けど、やっぱり杖を鈍器にするのは許せないな」

「また言ってるにゃ。お前はお前、モカはモカにゃ。杖を相棒と見るか、道具と見るかはソイツの価値観にゃ」

「まぁ、そうだな。そうだな……」


 正論過ぎて反論の余地もない。

 でも、魔術師らしからぬ杖の扱い方は……うーん。

 彼女が元宮廷魔術師だからっていうのも引っかかる原因なんだろうな。


「この話は終わりにゃ。お前、試しに魔術を撃ってみろにゃ」

「分かった」


 俺は杖を構えて、魔術を行使する。


「──エクリクシス!」


 詠唱と同時に魔法陣を展開する。

 魔力が魔法陣によって、その在り方が変化する。

 圧倒的な衝撃と火力がスライムに襲いかかる。

 衝撃の余波で風が吹き荒れ、木々が激しく揺れて葉が散っていく。


 やっぱり爆破魔術は最高だな。

 腹にズンと響く衝撃、立ち込める土煙、舞い上がった地面の破片がパラパラと落ちる音。

 そのどれもが高揚感を与えてくれる。

 これだからやめられないんだよな。


 プネブマのおかげで威力も自在に調節できるようになったから、前よりも魔術を使いやすくなって、俺の心はさらに晴れやかだ。


「す、凄い威力ですね……」

「ありがとう」


 爆風でなびく白い髪を押さえながらルカが呟く。

 魔術を褒められたことに素直に嬉しくなる。

 しかし、喜びも束の間。

 モカが咳払いをして、土煙の先を指差す。


 スライムは全くの無傷で何事もなかったかのようにプルプルと震えていた。

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