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第75話 勇者パーティーの帰還⑧


 この街には自然公園があったので、そこで修行することにした。

 もちろん他の利用者に迷惑がかからないように端っこの方での目立たないようにやるつもり。


 私、その隣に拘束されているエベリナ。

 対面側に右からオスニエル、イアン、イヴィーの順で並んでいる。


「まず、得意不得意を見つけるために貴方たちには固定観念を捨ててもらうわ」

「固定観念?」


 イヴィーが首を傾げる。


「例えばオスニエルは自分では前衛で剣を扱うのが得意と思っているでしょ?」

「事実だ。僕は勇者として剣を振るい、率先して敵を斬るのが最も得意なことだ」

「はい、それが固定概念。ついでに言っておくと貴方の剣術酷いから。剣術と呼ぶのもおこがましいレベルね」

「なっ……」


 オスニエルは衝撃の事実と言わんばりに絶句した。

 いや、これまでも気付く場面はいくらでもあったと思うんだけど。

 というか直接言った気もするし。

 なんで、そんなに新鮮なリアクションができるのか理解できない。


「という感じで人は自分の得意不得意を勝手に判断しているわ。だから、今からは固定観念を一旦取り払って可能性を模索しましょう。それと……」


 私は先ほど書いた紙を三人に渡す。

 そこに書いてあるのは言わばトレーニングメニューだ。


「貴方たちは基礎体力がなさすぎるから、これをこなしてもらうわ」

「えー、こんなに筋トレしたらムキムキになっちゃうじゃない! わたし、ムキムキは嫌よ!」

「あのね、イアン。筋肉なんて簡単につかないから。本当に筋肉がある人は信じられないくらいトレーニングをして、食事とか気をつけているのよ。それに貴方はもう少し筋肉をつけた方が健康的になると思うわ」

「シェリルがそういうなら。うん、わたし頑張ってみるわ!」


 イアンが拳を握りしめて決意をあらわにする。

 もうね、素晴らしい。

 本当にイアンって素直だから好感持てるわ。


 で、トレーニングに不満を持つのがもう一人。

 イヴィーは髪をいじりながら、妙な視線で私を見つめてくる。


「別に運動するのは嫌いじゃないけど、どうせならシェリルと別の運動がしたいなぁ」


 は? 何言ってんだコイツ。

 張っ倒すぞ、色情魔が。

 露骨に胸を寄せて、私にアピールするな。

 そんなことで気持ちが揺れると思っているの?

 いい加減に理解してほしい。

 私に色仕掛けは絶対に効かないということを。


「シェリルが乗り気じゃないから、代わりに私が相手してあげましょうか?」


 イヴィーが向ける視線の意図を理解したエベリナがからかい半分に誘う。

 わざと艶かしい表情をする赤髪の美女。

 うーん、これは中々の威力だ。


 ポッと顔を赤らめたイヴィーは少しばかり固まる。

 コイツ、想像しているな。

 少ししてから、我に返ったイヴィーは首をブンブン横に振った。


「四皇将の甘言には乗らないわ」

「あら、残念。振られちゃった」


 ニヤニヤと私を見るエベリナ。

 ぐっ……楽しんでやがる。


「と、ともかく、この数日間で貴方たちの得意分野を見つけるわ。それに合わせて陣形も構築していく予定」

「いいか、シェリル。僕は何が得意であろうとも前衛を任せてほしい」


 はぁ……本当に強情な奴だな。


「それって勇者としてのプライド?」

「その通りだ。それに王子としてのプライドだ」

「じゃあ、そのプライドを貫いた結果死んだとしてもいいの?」

「ああ、構わない」


 思わず大きな溜め息を吐いてしまう。

 一体、彼は何度落胆させれば気が済むのだろう。


「本当にそう思っているのなら、勇者としては立派かもしれないけど、王子としては最低の選択ね」

「……なぜ?」

「それくらい自分で考えて。提案は却下、貴方のわがままで全滅したら元も子もないから」

「分かった」


 オスニエルは素直に引き下がった。

 いや、感情が特に出てないから内心でどう思っているのかは不明だ。

 もしかしたら、物凄く不愉快に思っているかもしれない。


 そう思われているなら、それでもいい。

 私は貴方たちを無事に帰還させないといけない。

 そのために必要なことをするつもりだ。

 例え、嫌われても。


 あれ?

 でも、オスニエルって王子だよね?

 王国の次期王だよね。

 これ後々マズイことになるんじゃ……。


 まぁ、別にいいか。

 王国に永住しているわけではないし。


 というか、オスニエルたちを無事に帰還させないとどっちみち処罰される。

 まぁ、私に失敗はありえないんだけど。


 まったく偉大で美しい賢者だからって厄介ごと押し付けてきて。

 本当に困ったものだ。


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