第74話 勇者パーティーの帰還⑦
「オスニエル下がって!」
「いや、まだ行ける!」
私の言葉を無視してオスニエルがモンスターに向かっていく。
戦っている敵は図体がデカく動きは遅い。
だけど、その分持っている棍棒から繰り出される一撃はかなり強力だ。
証拠に先ほどの一撃で地面が抉れている。
賢者である私からすれば杖を一回振るえば終わるような相手だが、かれこれ三十分近く戦っている。
理由は言わずもがなオスニエルだ。
モンスターと出くわした瞬間に剣を引き抜いて突進。
攻撃魔術を行使したらオスニエルを巻き込んでしまう恐れがあるので渋々サポートに回ることに。
大精霊との出会いにより心を入れ替えた的な雰囲気を出していたが、やはり人間の性根というものは早々変わらないようだ。
馬鹿王子の自己中心的性格と雑魚さ加減は安定だ。
イアンとイヴィーはエベリナの護衛で後方で構えていたが、時間の経過とともにやる気が減っていくのが目に見えた。
それは私も同じだ。
先の注意をしてから、後方にいるエベリナたちと談笑をしている。
オスニエルが危なそうだったら防御魔術を、攻め手に回ったら身体強化魔術をかけている。
それから二十分が経ち、疲労困憊になったオスニエルが逃げ帰ってきた。
滝のように汗を流し、膝は信じられないくらいガクガクと震えている。
しかし、傷は一つもない。
私が完璧に守っていたから当然の結果だ。
で、オスニエルが倒しきれなかったモンスターは私が処理した。
旅を再開してから三日。
この展開をかれこれ何十回もしている。
いい加減、頭がおかしくなりそうだ。
×××
次の街に着いた。
立ち寄った食事処にて緊急会議を開いた。
議題はもちろん陣形について。
「この三日間でよーく分かったわ。というよりこのパーティーに入った時から分かっていたことだけど」
言葉を区切って、オスニエルを睨みつける。
馬鹿王子は飲もうとしていた飲み物をそっと口元から離して、コップをテーブルに置いた。
「オスニエルは人の話を全然聞いてない。あと、自分の実力を全くもって把握していない」
「未熟なのは理解している。だが、僕は……」
「今日のモンスターとの戦いにどれだけの時間を割いたか分かってる? 平均的な冒険者なら十分、私なら三秒で倒せるところ、貴方は約一時間。結局倒せなかったし」
「それは……」
少し渋い表情を浮かべるオスニエル。
前にガチギレしたのが効いているのか、最近は下らない言い訳をしなくなった。
でも、行動は直らないから腹立たしい。
「よく聞いて。私たちはエベリナという爆弾を抱えながら旅をしているの。それは王都に着いて然るべき場所に引き渡すまで危険は付きまとうの。時間を無駄にすればするほど危険度が増していく」
「確かにシェリルの言う通りだ。すまない」
オスニエルが頭を下げる。
その素直さは叱られている時だけなの?
まぁ、いいわ。
私はイアン、イヴィーにも視線を向ける。
「今後のことも考えて、そろそろ修行を始めるわ」
「自衛のためね」
「その通り。まずは各々の得意分野を見つけるところから」
「でも、どうやって見つければいいのかしら?」
イアンが困ったように頬に手を添える。
「私が見極めるから安心して。お昼食べたら早速修行開始ね」
実を言うとこの時の私はテンションが少し上がっていた。
理由は単純で教えるのが好きなのだ。
私の指導によって成長していく様を見るのは充実感と達成感がある。
それに彼らが最低限の力を付けれてくれれば、私の負担も少しは減ってくれる。
ストレス緩和はとにかく嬉しい。
精神の安寧を目指して、私はいつも以上に気合を入れるのだった。




