第73話 勇者パーティーの帰還⑥
「色々とご迷惑おかけしました」
無事に退院することができたイアンが深々と頭を下げた。
流石は都随一の回復術師が運営する医療施設。
さっき見せてもらったけど火傷は綺麗に治り、入院する前と比べて明らかに顔色が良くなっていた。
「元気になって良かった」
「ありがとう、シェリル」
ウィンクするイアンを見て、イヴィーが困惑した表情を浮かべる。
「なんか雰囲気変わってない?」
「これが本当のわたしよ。もう、隠すのも疲れちゃったし曝け出して行くわ」
「そ、そう。まあ、いいんじゃない」
無骨で貫き通していたイアンの急変にイヴィーは対処しきれていないようだ。
反応がぎこちない。
私はイアンの選択を素直に尊敬している。
偽りの自分を演じるよりもずっと輝いていると思う。
「イアン」
「オスニエル」
それまで黙っていたオスニエルがイアンの前に立つ。
そして、深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べた。
「僕のせいで君に大怪我を負わせてしまった。本当にすまない」
「もういいのよ」
オスニエルは私とイヴィーに対しても謝罪した。
「二人にも多大なる迷惑をかけた。本当にすまない。きっとこれからも迷惑をかけてしまうと思うが、少しずつ変わる努力をしていくつもりだ」
お、おう……。
こうしてまともに謝罪されると反応に困る。
自己中が服を着て歩いていたようなオスニエルが……人間いかようにも変わるんだな。
それもこれも、あの大精霊のおかげか。
「私は本当に変わるまで信用しないから」
「ああ、それで構わない」
イヴィーの辛辣な言葉も真摯に受け止めるオスニエル。
それだけでも十分な成長だ。
「シェリル、君も見ていてくれ。僕が変わるところを」
「しっかり見ているわ」
勇者パーティーは前と比べて少しだけまとまりができた気がする。
×××
セラピアを後にした私たち。
現在は草原で休憩をしていた。
その時間を使って、私は今後のことについて話をすることにした。
「改めて言うけど、私たちの目的はエベリナを生きたまま王都に護送すること。魔王軍の追っ手が予想されるから戦いは今までより厳しいものになる可能性がある」
拘束されたエベリナが赤い髪を撫でながら私たちを見つめる。
「しっかり守ってね」
彼女の軽口を無視して続ける。
「で、はっきり言って貴方たちは弱いわ」
「反論の余地なしだ」
今までは否定していたオスニエルが肯定する。
スムーズに話が進むのはいいけど、なんか調子狂うな。
「貴方たちを守りながら戦うにも限度がある。だから、せめて自衛の力くらいはつけて貰うわ」
「それってシェリルが教えてくれるの?」
「必然的にそうなるわね」
「ふぅん」
おい、ニヤニヤするな。
何かにつけて触ろうとしているだろ。
ふざけんな。
「それと陣形の見直しもするわ」
「賛成! わたし、もう前衛なんて嫌よ!」
食い入るようにイアンが手を挙げる。
うんうん、今となっては凄く気持ち分かるよ。
オスニエルに気に入られようとして頑張って槍振り回していたんだもんね。
「とりあえずは私が前衛を引き受けるわ。貴方たちはエベリナの周りを固めて」
「ちょっといいか」
オスニエルがスッと手を挙げた。
「僕はこれまでと変わらずに前衛を務める」
「任せられないから後ろに下がって欲しいんだけど」
「いや、それだけは譲れない。僕は勇者の称号を背負っているんだ。先陣を切って敵に斬り込むのが勇者の本懐だろう」
「あー」
「それに僕には大精霊様がついてくださっているんだ! あの方に見られても恥ずかしくない振る舞いをしなければ!」
声でっか!
耳が痛くなるから急に大きな声を出さないで欲しいんだけど。
というか未だに勇者だ何だって……。
あー、もうめんどくさいからいいや。
「じゃあ、オスニエルは私と一緒に前衛を担当。ただし、私の言うことは必ず聞いて。退けと言ったら退いて。分かった?」
「…………分かった」
なにその間は?
コイツ、従わなさそうで怖いんだけど。
若干の不安を残しつつ、私たちの帰還の旅が再スタートしたのだった。




