第72話 さようなら癒しの都
セラピアの都から離れる時間が近づいて、俺はシェリル姉さんに挨拶をすることにした。
基本的に彼女は世界中を飛び回っているので、次に会うのはいつになるのか分からない。
しばらく探した結果、シェリル姉さんは病院にいた。
イアンの見舞いをしていたようで、彼女の提案で展望台で話すことになった。
「イアンの容態は?」
「かなり良くなって来ているわ。流石セラピアといったところかしら」
「それは良かった」
イアンの回復を自然と喜べた自分に驚きを隠せなかった。
人間、話をちゃんとすれば分かり合えるんだな。
「シェリル姉さんたちはこれから王都に向かうのか?」
「問題しかないメンバーを守りながら王都まで向かうと思うと気が重いわ……」
「きっと大丈夫だと思う。だってシェリル姉さんは賢者だから」
俺の言葉にシェリル姉さんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ありがとう」
すると、後ろにあるベンチで座っていたエベリナの笑い声が聞こえてきた。
シェリル姉さんと彼女は行動を共にしている。
弱体化されているとしても相手は四皇将だ。
いざって時に無力化出来るようにシェリル姉さんが監視しているのだ。
だが、見た感じでは急に暴れまわるような人には見えないが。
「何よ、エベリナ」
「随分と楽しそう」
「弟弟子が褒めてくれてるのよ? 嬉しくもなるし、楽しくもなるわ」
エベリナはクスリと笑い、俺の方へと視線を向けた。
「ルーファス、だったかしら?」
「ああ」
「良いこと教えてあげるわ。貴方の近くに裏切り者がいる」
「何?」
エベリナからの情報を聞いて、意味は分かったが理解が追いつかない。
裏切り者だと?
何を言っているんだ?
「ちょっと、エベリナ! それ冗談で言ってたら許さないわよ!」
シェリル姉さんがエベリナに詰め寄る。
エベリナは全く態度を変えずに淡々と言う。
「悪趣味な冗談は好まないの。ルーファス君、貴方は魔王軍で要注意人物に認定されているのよ。で、魔王軍は内通者を通じてルーファス君を消そうとしているわ」
「信じられないな」
「本当? 貴方が故郷に帰った丁度その頃にヘルムートの襲撃があったこと。貴方ここに来た時に偽物勇者が暗黒騎士にされたこと。他にも色々とあるかもしれないけど全て偶然だと思う?」
「それは……」
言われてみればそうかもしれない。
絶対に違う、とは言い切れない。
確かに俺の周りでは魔王軍とのトラブルが多い気がしていた。
「どうして、ルーファス君が要注意人物になっているの?」
「きっかけは勇者パーティーよ。魔王軍の脅威になる者が一人だけいる、と魔王様が仰ったのよ」
「魔王が!?」
エベリナが頷く。
現実感がなくて、めまいがしてきた。
まさか魔王に目を付けられていたなんて……。
「とはいえ、四皇将の一人を討ち取ったから簡単には手出ししてこないと思うけど。魔王軍だって相当消耗しているから、無駄に戦力を失いたくないでしょうし」
「そうであることを願うよ」
心配そうな表情でシェリル姉さんが言う。
「大丈夫?」
「ああ、やることは今までと変わらないからな。それに──」
その時、丁度ティナたちの声が聞こえて来た。
「お兄様〜」
「馬車そろそろ出るって!」
「はよせい、置いていくぞ!」
「あらあら、ヴァリスちゃんったら」
「ウケる〜」
セラフィ、ヴァリス、フェリシア、プネブマの姿が瞳に映る。
不思議と力が湧いていきた。
「俺には頼りになる仲間がいるからな」
「そうだね」
「じゃあ、俺は行くよ」
「うん。またどこかで、ルーファス君」
「またどこかで、シェリル姉さん」
俺はシェリル姉さんと握手を交わしてから、ティナたちの元へ向かう。
その最中でセラピアで起こったことが脳裏で駆け巡る。
ここは俺の身体だけではなく心まで癒してくれた。
──ありがとう。
その思いを胸に俺の慰安旅行は幕を閉じた。




