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第69話 ルーファスvsオスニエル②


 『大精霊の加護』がない今なら回復魔術を使っても大丈夫なはず。

 腹部の怪我を治したいが、オスニエルの追撃が許してくれない。

 俺の魔術によるダメージは確実にあるはずなのに動きのキレに変化は殆どない。

 それどころか剣の速度は上がっていく。


 対称的に俺の動きは明らかに鈍くなっている。

 動くたびに傷が痛む。

 必然的に攻撃を受ける回数が多くなる。

 致命的なモノはないが傷は確実に増えていっている。


 痛みで思考が若干混濁してきた。

 でも、魔術行使は問題ない。

 自分の手を無意識に動かせるように術式も組めるからだ。

 これだって今までの努力の成果だ。


 そう、魔術が好きで、好きで、大好きで研鑽をし続けてきた。

 自分の得意魔術を伸ばして、苦手魔術を克服して、効率の良い術式構築などなど。

 思いつく限りの努力をしてきた。

 魔術の真髄、最果て──『窮極』へと至ることを目指して。

 

 だから、魔王討伐パーティーに選ばれた時は正直言うと嬉しかった。

 俺の魔術が世界を救う一役を担える。

 今までの成果を見せるにはこれ以上ないと思っていた。

 まぁ、現実は非情だったが。


 とはいえ、今までのことが無意味になんてならない。

 全ての過去が糧となって、今の俺がいる。

 努力は何一つ間違っていない。

 だが、それにも限界はある。


 努力だけだったらここ止まりだっただろう────。

 

「──アトミス!」


 俺を中心に大量の水が噴き出す。

 オスニエルは咄嗟の出来事に反応ができずに立ち止まった。

 そして、ずぶ濡れだ。

 

 俺は土魔術で地面を盛り上げて、次攻撃からの巻き込まれを防ぐ準備をした。

 オスニエルは濡れたことなど意に介さず、濡れた大地を蹴って跳躍、俺の元へと迫ってくる。

 今のオスニエルは滞空中で身動きが取れない。


「──ケラヴノス!」

「──────っ!?」



 詠唱で何が起こるかを察したオスニエルは回避することを諦めて、俺への攻撃を優先した。

 オスニエルは勢いよく剣を投擲した。

 空を切り裂きながら滑走する剣は俺の肩を斬り裂いた。

 痛みで杖を放してしまい、体勢を崩して落下する。

 土魔術で盛り上げていた地面が崩れて行く。


 だが、詠唱は既に終えている。

 魔力が術式によって電撃へと変化し、目も眩むような輝きがオスニエルを襲った。


「ぐうぅぅぅぅぅぅ────っ!!!」


 オスニエルの耐える声が微かに聞こえた。

 落下して行く俺の視界には飛び散る鮮血が見えた。


 俺とオスニエルは同時に地面に着地した。

 着地と言ったが、正確には叩きつけられたと言ったほうがいい。

 オスニエルはどうか知らないが、俺は防御障壁を展開しなければ身体中の骨が砕けていただろう。


 幸い骨は無事、打撲だけで済んだ。

 まだ、戦える。


 オスニエルの方を見る。

 ダメージは大きいようで、身体中から煙を立ち上らせえており、所々に火傷を負っていた。

 それでも立ち上がってくる。

 とはいえ高出力の爆発魔術、雷魔術を喰らったんだ。

 もう限界に近いはずだ。

 そうであってくれないと困る。


 腹部と肩の出血が酷い。

 これ以上は戦えない。

 次の一手で決めないと……。


 互いが互いを睨みつけた。

 二人の間にはオスニエルが投げた剣が落ちている。

 俺の杖はオスニエルの後方にある。

 放り投げてしまったせいで変な所に落ちてしまったようだ。


 そのことにオスニエルも気付いている。

 きっと、俺が杖を取ろうとするのを邪魔するはずだ。

 距離的にオスニエルの方が確実に武器を取る。

 …………。


 僅かな沈黙。

 次の瞬間、俺とオスニエルは同時に走り出した。

 限界まで強化した俺よりもオスニエルの方が早い。

 あっという間に剣の元へと辿りつき、掬い上げるように武器を取った。


「杖のない魔術師にできることなどない! これで終わりだ! ルーファス!」


 勝利を確信したオスニエルの声がこだまする。

 だが、その声は俺には聞こえなかった。

 走っている中で様々な思いが高速で駆け巡っていた。


 そう、努力だけだったらここ止まりだっただろう。

 魔術しか戦う方法を知らなかった俺だったら、オスニエルには絶対勝てなかっただろう。

 だが、今の俺にはこれまでの経験がある。

 多くの強敵との戦い。

 仲間たちとの冒険の思い出。

 それらが、俺に魔術以外の選択肢を与えてくれた。


 俺はナイフを取り出し、魔術で風を纏わせて切れ味を最大限に上げる。

 そして、迫ってくるオスニエルに真っ向から挑む。


「なっ!?」


 俺の行動にオスニエルは驚愕した。

 二人の距離が縮まり、剣とナイフが交わった。

 火花が弾け飛ぶ。


 俺は果敢に攻めた。

 オスニエルはすぐに立て直して応戦してくる。

 一秒、たった一秒が果てしなく長く感じた。

 一撃を受けるだけでドッと体力を持っていかれる。

 だが、それも────。


「驚いた。まさかお前が……魔術師が接近戦なんてね。だけど、その程度で僕に勝てると思っている訳じゃないよな!? そんな武器で! そんな斬撃で!」

「ああ、接近戦で勝てるなんて微塵も思っていない。俺は魔術師だからな」

「なら、無駄な足掻きをしないで大人しく負けを認めるんだ!」

「いいや、俺の勝ちだ」


 俺は戦闘開始時からずっと組み続けていた術式を発動させる。


「──エルクシ」


 突如、オスニエルの動きが極端に鈍くなった。

 剣を振るのも、あまつさえ立っていることも辛そうで遂には膝をつく。

 何が起こったか理解していないオスニエルは俺を睨みつける。


「何をした……?」

「重力操作魔術だ。俺が解除しない限り、お前は満足に動くことはできない」


 これが俺の秘策だった。

 戦いの序盤中盤でオスニエルの体力を削り、終盤で接近戦を仕掛けて重力操作魔術で動きを完全に封じる。


 言うのは簡単だが、実際は大変の一言だ。

 まず、俺は重力操作魔術が得意ではない。

 術式を構築するのにかなり時間がかかる。

 それに、効果範囲は俺を中心とした僅かな距離のみ。

 通常戦闘では殆ど役に立たない。

 だが、オスニエルを倒すにはこれが最善策だと考えた。


 序盤、中盤で覚えている魔術の中で高火力の爆発魔術、雷魔術で体力を削る。

 体力が十分にあったら、重力操作魔術から逃げられる恐れがあったからだ。

 ついでにあえて接近戦を拒む素振りを見せておいた。

 終盤戦でやぶれかぶれの攻撃だと思わせるためだ。


 とはいえ、色々と運が良かったから策がハマった感は否めない。

 動けないくらいのダメージを終わったらそこで終わっていたし、魔術がろくに効かなくても終わっていた。

 何よりも助かったのはオスニエルが自分以外に興味がなかったことだ。

 シェリル姉さんの戦い方を知っていたら、いくら魔術師相手でも接近戦を警戒していただろう。


 とにかくだ。

 俺は動けないオスニエルに向けて、ナイフを突き出す。


「俺の勝ちだ」

「…………」

「あと、これは最高の武器だ。なんせ最高に可愛い妹の愛用の武器だからな」


 呆気に取られたオスニエル。

 ゆっくりと俺を見てから、そのまま空を見上げて呟いた。


「そうか……。僕は負けたのか」


 それは、俺とオスニエルの因縁に決着がついた瞬間だった。

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