第68話 ルーファスvsオスニエル
俺とオスニエルの実力を早急に修正する。
俺の現在の状態。
先程と比べて明らかに体の感覚が違う。
今までは『龍の加護』、『大精霊の加護』によって身体能力を限界以上に強化されていた状態だった。
冷静に分析して本来の身体能力はティナの遥か下に位置するだろう。
愛しの妹は破格の身体能力をしている。
正直、最高峰の冒険者たちが集まる王都冒険者ギルドでもトップクラスに入ると断言できる。
うん、そう思うとティナと比べること自体間違いだった。
強化魔術を限界まで重ねがけして、ようやくティナの動きにギリギリ対応出来る程度になるだろう。
最愛の妹よりオスニエルが早いことはない。
そこは断言できる。
ティナの移動速度を超える存在に出会ったことはない。
魔術の威力はこれまでと比べて格段に落ちているだろう。
これも本来の状態に戻っているだろう。
それでも魔術だけは十分にトップレベルだと自負している。
師匠と姉弟子のお墨付きだ。
ここだけは絶対の自信を持っている。
飛び道具としてティナからナイフを拝借している。
このナイフがオスニエルを倒すために重要な働きをしてくれると考えている。
とにかく頭を使わないと今のオスニエルには勝てない。
オスニエルが剣を構え、大地を蹴る。
たった一歩で俺との距離が詰まった。
想定していた以上に早い!
味方側で見ているのと敵で見るのでは大違いということか。
強化魔術をかける余裕がなく、とにかく防御をしなければと反射的に体が動く。
防御障壁を展開する。
オスニエルの加護によって強化された斬撃。
一瞬にして防御障壁が砕け散った。
障壁の欠片が散らばるその奥にオスニエルの自信に満ちた顔が見えた。
「そうだ! これこそ本当の僕だ!」
オスニエルの蹴りが腹部に深く突き刺さる。
あまりにも重く、鋭い衝撃に体が浮いて、一気に後方に吹き飛ばされた。
胃液を吐き出しながら俺は何度も地面を転がる。
腹部の痛みと視界が回転する気持ち悪さを必死にこらえながら強化魔術をかける。
一回、二回、三回……とにかく限界まで重ねがけする。
早く、早く、早く!
この強化が完了しないと勝負のスタートラインにすら立てない。
そうこうしているうちにオスニエルが肉薄してきた。
強化魔術の恩恵で先程までよりは動きが見えるようになった。
とにかく接近戦に持ち込まれるのはダメだ。
オスニエルが相手だからというわけではなく、魔術師は中遠距離戦闘を主体としている。
近接戦闘に持ち込まれたら圧倒的に不利なのだ。
炎魔術を広範囲に行使して、オスニエルの進行を防ごうと画策する。
だが、
「こんなもので僕は止められないぞ!」
オスニエルが剣を振るう。
真一文字に描かれた軌道から暴風が発生する。
何かをしたわけではない。
ただ、剣を横に振るっただけだ。
それだけで暴風が吹き荒れて、炎の壁が一瞬にして掻き消されてしまう。
「別に驚きはしないさ」
簡単に突破されるのは予想していた。
少しでも時間を稼ぐために炎魔術を行使したまでだ。
僅かな時間でも魔術の発動準備は終えた。
「──グラティニス!」
俺の詠唱によって地面が意思を持ったかのように隆起する。
蠢きながら、オスニエルの行く手を封じた。
彼は回避しようとするが、四方八方に展開されているので逃げられない。
その様子はまるで下から鳥かごが造られて行くようだ。
「────っ」
やがて、オスニエルは土の半円球に閉じ込められた。
これも時間稼ぎ。
突破される前に俺は魔術を連続して行使する。
そのために頭の中で次に行う魔術を選択し、さらにその次の魔術もいくつか候補にあげておく。
こんな時、同時連続行使ができればとつくづく思う。
しかし、そんなことしようものなら脳神経が焼き切れて、魔力が一気に枯渇してしまう。
それをやってのけるシェリル姉さんは本当に凄い魔術師だ。
俺には到底できない芸当だ。
だから、その代わりに魔術行使のインターバルを短くするように努力してきた。
「──エクリクシス!」
圧縮した魔力を一気に解き放つ。
展開された魔法陣を介して魔力が質量を帯びて爆発的に膨張する。
それによって発生した衝撃と爆発した魔力が土の鳥籠に閉じ込められたオスニエルに直撃。
地面は砕かれ、宙に舞った土塊が小雨のように降り注ぎ、土煙が盛大に吹き上がった。
威力は十分。
大抵の相手なら今の一撃で終わるところだが、オスニエルはこの程度で倒しきれないだろう。
追撃をするか、反撃に備えるかを悩んでいると、土煙の中からオスニエルが飛び出してきた。
確実にダメージは負っているが、思ったよりもピンピンしている。
剣を構えながら疾走するオスニエル。
俺は反射的に防御障壁を展開する。
銀色の一閃。
しかし、防御障壁は割れない。
次の瞬間、オスニエルの姿がブレて消えた。
どういうことだ!?
困惑すること数秒。
俺は懐に潜り込まれていることに気がつく。
「────っ!!」
さっきのは残像!?
いや、殺気の込められたフェイントか!
完全にやられた!
「覚悟しろ!」
俺が後退するのと、斬撃が走ったのはほぼ同時だった。
腹部に痛みが走り、地面に鮮血が飛び散る。
オスニエルの刃圏外へと逃れた俺は膝をつき、斬られた腹を押さえた。
脂汗が滲んで来るのが分かった。
かなり深くまで斬られた……。
内臓まで届いていないのは幸いというべきか?
やはり、加護付きのオスニエルは強い。
だが、不思議と絶望感はなかった。
俺は立ち上がり、再び杖を構えた。
必ず、勝つ──。




