第65話 幸運の女神が降臨した日
カジノの雰囲気にも慣れてきた俺たちはフェリシアと別れて、どのゲームをしようかと店内を散策していた。
そして、悩んだ末に選んだのがルーレットだ。
シンプルが故に初心者でも楽しめるゲームだと思ったのが理由だ。
俺とティナが意気揚々とゲームに挑み、セラフィは観戦側に回った。
「お兄様、どちらがチップを多く増えせるか勝負しましょう!」
「世界一可愛い妹が相手だからと言って俺は手を抜かないぞ?」
「望むところです!」
思えば、ここが俺たちのテンションの最高点だった。
いざ、ルーレットをするも面白いくらい勝てない。
一点賭けはもちろん、満遍なく賭けても駄目、赤か黒の二択すら綺麗に外してしまう。
途中からは勝負のことなど忘れて、俺たちは一勝をもぎ取るために協力をする。
兄妹の力を合わせて全力でルーレットに挑む。
「ティナ! ここに全てを賭ける!」
「はい! お兄様! 我々の命運を!」
「念願の一勝を!」
兄妹の気合いの咆哮。
俺たちは運が悪い。
それは分かっていた。
だが、ここまで何もないなんてあんまりじゃないか。
もう、運なんて信じない。
「いっけぇぇぇぇぇぇ────っ!!!」
運命など無視して、俺たちは自分自身の力を信じて勝利を手繰り寄せるのだ。
×××
俺とティナは死んだ表情でルーレットの結果を眺めていた。
完全敗北。
幸運の女神はよっぽど俺たちのことが嫌いなようだ。
「だ、大丈夫?」
セラフィが心配そうな声で俺とティナに話しかけて来た。
勝負に熱が入りすぎて、彼女の存在をすっかり忘れていた。
「大丈夫……致命傷だ」
「それ全然大丈夫じゃないよね!?」
驚愕するセラフィの可愛さに少しだけ負けの傷が癒えた。
それから席を立って、セラフィに座るように促す。
「見てるだけじゃつまらないだろ。セラフィもやってみたらどうだ?」
「それじゃあ、やってみようかな」
俺の代わりにセラフィが座る。
それからセラフィは少し前屈みになってテーブルの上を凝視する。
俺とティナはテーブルの上に乗った胸をついつい見てしまう。
やはり凄まじい存在感だ。
しばらくしてセラフィは賭ける場所を決めたようで体を起こした。
「決めた、3に賭ける」
「一点賭けするのか?」
「ギャンブラーですね」
「うーん、直感でそこがいいかなって」
他のプレイヤーもベットが終わり、運命のルーレットタイムとなった。
ディーラーが合図と共にルーレットを回転させる。
そして、回転方向とは逆方向にボールを投げる。
ボールは生きているかのようにルーレットの中を跳ねる。
その行方にプレイヤーたちは固唾を呑んで見守っていた。
セラフィ、ティナもルーレットを凝視する。
俺も例外なくボールの行方を、セラフィが賭けたポケットを見つめる。
徐々にボールの勢いは落ちていく。
そして、居場所を見つけたようにポケットにボールが入った。
入ったポケットの数字は3。
一斉に歓声が上がる。
セラフィは驚きいて口元も手で隠す。
「セラフィ、やったな!」
「凄いです!」
「嘘……信じられない」
しかし、信じられないのはここからだった。
セラフィはずっと一点賭けを続けた。
それなのに全て勝つのだ。
一回くらい負けても……というか負ける確率の方が高いだろうに。
あまりの連戦にプレイヤーと見に来ていたプレイヤーはドン引き。
挙げ句の果てにはイカサマを疑われて店の人までやって来た。
当然、セラフィは何もしていない。
単純な運の良さのみで勝ちを重ねているのだ。
とはいえ、ここまで大事になってしまったのが恥ずかしかったようでセラフィはこれ以上ルーレットをすることはなかった。
しかし、セラフィの快進撃は止まることはなかった。
何をしても勝つのだ。
それは恐ろしいくらいに勝つのだ。
運の要素が強ければそれに比例してセラフィの勝率が上がっていく。
スロットをやれば止めどなくメダルを吐き出し。
カードゲームをやれば基本的にプレイヤーの中で最強の役になる。
最初こそ、俺とティナは、勝ちを重ね増えていくメダルやチップを見て喜んでいたが、徐々に恐怖を覚えるようになっていた。
そして、
「お客様、大変申し訳ありませんが……」
セラフィは店から出禁を食らった。
因みにこの一件は後にギャンブラーたちの間で『幸運の女神の降臨』なる伝説として語り継がれつことになる。
だが、そのことを当の本人は知ることはなかった。
×××
カジノの外でお姉さん組を待つことに。
店を破滅寸前にまで追い込んだセラフィは申し訳なさそうにしていた。
「ごめん」
一緒にいた俺たちも出禁を食らってしまったのだ。
「別に構わないさ。俺とティナは居ても全く楽しめなかったからな」
「久々に自分の運の悪さを痛感しました。賭け事は今後一切やりません」
「俺も同意だ」
俺とティナの運の悪さ、セラフィの運の良さがもはや超常現象レベルということを改めて確認できた。
それにカジノを楽しむセラフィの姿を見れただけで満足だ。
欲を言えばティナの楽しんでいるところも見たかったが……。
「何か聞こえませんか?」
その時、俺は自分の運の悪さを真に理解していなかった。
ティナは耳に手を添えて、辺りを注視する。
セラフィも辺りをキョロキョロと見渡す。
俺は耳を済ませる。
すると、確かに何かが聞こえてきた。
人の話し声とかではない。
もっと無機質な。
何か硬い物を地面に擦っているような……。
「────あ」
最初にそれに気付いたのはセラフィだった。
その表情には驚きと困惑が浮かんでいた。
俺とティナもすぐに目視する。
「あれは……暗黒騎士です」
それは漆黒の甲冑。
震え上がる程の禍々しい魔力を全身に纏わせて、それは俺たちと対峙する。
瞬間的に俺とティナは臨戦態勢に入る。
漆黒の甲冑──頭部の部分が激しい金属音を奏でる。
金切り音に混じって声が聞こえた。
「ルーファス……お前を……殺す」
「オスニエル……?」
甲冑の奥から聞こえた声に俺は絶句した。
幸運スキル持ちがカジノいいのか?
カジノ側はスキル確認しないのか?
などなどの意見があると思います。
ごめんなさい。書いている時は「セラフィの幸運爆発させて、カジノ破産だぜ!」くらいにしか考えていませんでした。




