第64話 煌びやかな宴
カジノの内装を一言で表すなら豪華絢爛。
シックな制服に身を包んだ従業員、遊戯を楽しむ羽振りの良さそうな客、派手な音を立てて稼働するスロット台。
空間そのものが煌びやかで自然と気持ちが浮ついてしまう。
それはティナ、セラフィの二人も同じだった。
「昔と違って随分華やかになったのね」
頬に手を当てながらフェリシアがおっとりと呟いた。
そういえば彼女が来たいって言ってたんだっけな。
「母さんはよく来てたのか?」
「夫が好きで、よく付き添っていたの。でもね、あの人たったら運がなくていつも負けていたのよ」
旦那さんとの思い出を楽しそうにフェリシアは話す。
すると、ティナが質問を投げかけた。
「お母さんの旦那さんはどんな人だったんですか?」
「一言で言っちゃうと変人ね」
「変人?」
「そう、後先なんて考えないで自分のやりたい事に全力を尽くすの。周りの目なんて一切気にしない。成功したら喜んで、失敗したら笑って。とにかく人生を余すことなく楽しんでいたわ」
「結構振り回されていたんですか?」
「それはもう毎日よ。でも、とても楽しい日々だったわ。あの人は私の知らない世界を色々見せてくれて、体験させてくれたから」
その表情でフェリシアはどれほど旦那さんを愛していたのか容易に想像できた。
フェリシアからすれば50年以上前の出来事。
それでも、鮮明に思い出に残っているのだろう。
「自分の妻がノーライフキングになってるって知ったら旦那さんはどんな顔するんだろうな」
「きっと喜ぶと思うわ。そうだ! 今度、呼び出してみようかしら? 可愛い我が子たちを紹介したいし、死霊魔術ならきっと……」
「それはやめよう!」
死人が死人を呼び起こすとか混沌過ぎる。
それにフェリシアの死霊魔術とかとんでもないことが起こりそうで怖い。
「さっきから何話しておる? 早くカジノとやらをやらせろ」
「つか、こん中うるさすぎてウケる。鼓膜吹き飛ぶんじゃね?」
ヴァリスが絨毯に尻尾を叩きつけながら、会話に割って入ってきた。
その隣にいるプネブマはしゃがみ込んで自分の髪を何となく触っていた。
フェリシアは微笑む。
「そうね、昔話はこの辺にしてカジノを楽しみましょう」
カジノがどのようにして楽しむ施設かというのをフェリシアが簡単に説明すると、ヴァリスは腰に手を当てながら大笑いをする。
「グゥハハハハハッ! 要はこのチップなる物を増やせばいいんじゃろ。造作もないわ!」
勝つ未来以外は見えないといった自信を全身に纏い、プネブマを連れて店内の奥へと消えていった。
勝てばいいが、怖いのは負けた時だ。
ブチ切れて暴れるかもしれない。
でも、プネブマが一緒なら大丈夫か……大丈夫だよな?
「ルーファスちゃんたちはどうする?」
「まだ空気に慣れてないから、しばらくは母さんと行動するよ」
「私はお兄様と」
「じゃあ、私も」
店内をひとまわりしてからフェリシアが最初に選んだゲームはポーカーだった。
彼女の座った卓にいた三人は各々の感想を口にした。
「これまた綺麗なご婦人が来たもんだ。子ども連れってのが少し残念だがな」
「やあ、麗しいマダム。家族旅行かい? ここでの思い出が苦くならないといいな」
「俺は美人には弱いが、賭け事となれば話は変わるぜ?」
言ってることは違うが意味は殆ど変わっていない。
そして、フェリシアは美人というのは共通認識のようだ。
俺もそう思う。
フェリシアは物腰柔らかに男たちに話しかける。
「お手柔らかにお願いね」
そして、四人のポーカー対決が始まった。
序盤はフェリシアがダントツで劣勢だった。
それもその筈でできた役に対してリアクションをとってしまうのだ。
「あらあら、どうしましょう?」
「これは良いかも」
など思い切り口にしているのだから格好の餌食だ。
なので、弱い役の時は攻め込まれてしまい、強い役の時は誰も勝負に乗ってこなかった。
どんどんチップが減っていく。
その様子を後ろで見ていた俺たちはずっとハラハラしている。
挙げ句の果てに──
「ご婦人、そろそろ終わりにした方がいいんじゃないか?」
「これ以上は苦いじゃ済まされないかもよ」
「傷が浅いうちに止めるのが賢い選択だぜ」
──と、周りからも心配される始末。
しかし、フェリシアは一切の焦りもなくどこまでも楽しそうにチップをベットする。
「勝負はこれからよ」
それからだった。
序盤の負けが嘘のようにフェリシアは勝ち星を上げていったのだ。
その理由の一つとして、フェリシアのリアクションが上げられる。
最初は手札の役に合わせてリアクションをしていたが、今は関係なくリアクションをしている。
ブラフを張っているのだ。
男たちはまんまとブラフにハマり損失を被る。
凄まじい勢いで増えていくチップ。
男たちに徐々に焦りの色が見えてくる。
流石にリアクションのブラフは通じない。
完全なる実力勝負。
しかし、そこからがフェリシアの本領発揮だった。
「レイズ」
「ここはコールかしら」
「うーん、フォールド」
フェリシアは異常なまでに勝負勘が鋭かった。
場の流れ、相手の心理、勝負所を見極める観察力──全てが男たちより何枚も上手だった。
結果はフェリシアの圧倒的勝利。
男たちは手持ち全てのチップを失い、仲良く放心状態になっていた。
いつの間にかギャラリーが集まっていて、勝利したフェリシアを拍手で讃えていた。
フェリシアは俺たちの方に体を向けてピースサイン。
「みんなが見ててくれたから、お母さん頑張っちゃった。いえい!」
「めちゃくちゃカッコ良かったよ、母さん」
「私、痺れちゃいました!」
「お母さん、凄い! 感動して泣きそうになっちゃった」
俺たちはフェリシアに賞賛のピースサインをした。




