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第58話 勇者パーティーの帰還⑤


 温泉から上がり、観光がてら街を全員で歩いていると、私は知った顔を見つけた。

 反対側から歩いてきた黒髪の二人組。


「あれ? ルーファス君とティナちゃん?」

「シェリル姉さん? シェリル姉さんじゃないか!」

「お久しぶりです、シェリルさん!」


 まさかの再会に私は思わず駆け寄ってしまう。

 最後に会ったのは数年前だっていうのに随分と変わっちゃって。

 

「凄い偶然! ルーファス君もティナちゃんも大きくなったわね」


 ルーファス君はたくましくなって、ティナちゃんは可愛くなった。

 何だか時の流れを感じちゃうな。

 嬉しくあり、寂しくもある。


「シェリル姉さんは相変わらず変わらないな」

「お兄様、こういう時は綺麗になったというところです」


 いいのよ、ティナちゃん。

 ルーファス君は相変わらず美しいって言ってくれているのだから。


 再会で積もる話もあるのだが、それをする暇もなくイヴィーが声を上げた。


「ルーファス……」

「イヴィー」


 そうだった。

 ルーファス君は勇者パーティーの元メンバーだった。

 しかも、イヴィーたちが追い出したと聞いている。


 これは気まずい。

 しかし、イヴィーはルーファス君をチラッと見てからすぐに私に視線を向けた。


「シェリル、ルーファスと知り合いなの?」


 あ、気になるのそこなんだ。


「ルーファス君は弟弟子なの」

「弟弟子。そうなの、ルーファス?」

「ああ」


 それを聞いてイヴィーは渋い顔をした。

 パーティーから追い出したことへの罪悪感ってわけではなさそうだ。

 どちらかと言うと自分の行いを私に知られるのが嫌だ、と言ったところだろう。


 安心して、イヴィー。

 貴女の過去の行いは殆ど知っているから。

 

 ルーファス君はこの微妙な空気を変えるために話題を切り替えた。


「それより、シェリル姉さんは何でセラフィたちと一緒に?」

「ビーチで話しかけられて、そこから意気投合して……というか、ルーファス君とティナちゃんだったのね」

「?」


 このとんでもパーティーの残り二人がルーファス君とティナちゃんと聞いて、妙に腑に落ちてしまった。

 うん、何か納得できる。


「ルーファス!」

 

 私が再びルーファス君に話しかけようとすると第三者の声が響き渡った。

 どうして私が話しかけようとすると邪魔が入るの?

 久しぶりにあった弟弟子との会話を楽しませてよ。


 私とルーファス君の語らいを邪魔する無粋な奴は誰?

 声の方に顔を向けると、オスニエルが立っていた。

 いや、お前かよ。

 宿に戻ったんじゃないの?


「オスニエル」


 オスニエルは他の視線など無視して、ルーファス君だけを瞳に捉えて距離を詰める。


「ルーファス、僕はずっと君に会いたかった」

「とても信じられない言葉だ」

「いいや、事実だ」


 オスニエルは腰に差していた剣を引き抜き、ルーファス君の首元に突きつけた。


「何してるの!」

「黙っていてくれ、シェリル。これは僕とルーファスの問題だ」


 その場の空気が一気に緊張感に包まれる。

 理由は単純。

 ルーファス君の仲間全員が戦闘態勢に入ったからだ。

 信じられない威圧感。

 しかし、オスニエルは怯むことなくルーファスをただ睨みつけている。


「俺は大丈夫だ。だから、みんな落ち着いてくれ」


 優しい笑みを仲間に見せてから、ルーファス君はオスニエルに視線を戻す。


「随分と慕われているようだな」

「おかげさまでな」

「君が呑気にしている間、僕たちは過酷な旅を続けた。その道はあまりにも過酷だった。なぜか、分かるか?」


 オスニエルはルーファス君に怒りを剥き出しにして怒号を張り上げた。


「お前のせいだ! お前がパーティーから抜けてから全てが狂ったんだ! 追い出した僕たちに逆恨みして何かしたんだろう!?」

「そんなことしていない」

「嘘をつくな! そうじゃないなら、どうして僕たちは上手くいかなくなったんだ!?」

「実力だろ。自分の無力さを他人のせいにするな」


 あまりにも酷い。

 ここまで醜くて小さな人間だとは思わなかった。


 オスニエルは大きく目を見開き、それから怒りの形相で呟いた。


「決闘を申し込む」

「なっ」

「幸いにもここは癒しの国だ。どんな重傷を負っても命は助かるだろう」


 ルーファス君は驚き、答えに躊躇する。

 だが、オスニエルの怒りに染まりきった瞳に話し合いでの解決は不可能と判断したのだろう。

 ゆっくりと呟く。


「分かった。その決闘を受け入れる」


 恐らく世界一無意味な決闘が始まった。


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