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第55話 勇者パーティーの帰還②


 癒しの国、首都セラピア。

 そこはまさに地上の楽園という表現がぴったりの場所だった。

 

 とにかく都全体が明るい。

 建物の色合いが明るい色で統一されているのが理由かもしれない。

 それに何か良い匂いが漂っている。

 とてもリラックスできる。


 私たちは着いて早々、都でもっとも有名な回復術師のところに向かった。

 清潔感を具現化したような白を基調とした巨大な建物。

 そこは『治癒宮』と呼ばれており、世界中のありとあらゆる病人、怪我人が治療を求めてやってくる。


 治癒宮に入って、受付の人に話を通してもらう。

 かなり待つと踏んでいたのだが、なぜかあっさりと診察をしてもらうことになった。

 何でも昨日から予約のキャンセルが続いているようだ。

 こちらとしたらありがたい話だ。



×××



「ようこそ……我が治癒宮へ……」


 診察室に入ると筋骨隆々の男性がしょんぼりしながら椅子に腰掛けていた。

 デカい体を小さく丸めている姿はとても悲しげだ。

 えぇ……何でそんなに元気ないの?

 貴方が診察された方が良いんじゃない?


「えっと……大丈夫ですか?」


 私が恐る恐る問いかけると、男性は力のない瞳をこちらに向けた。


「やぁ、この都随一の回復術師エルヴィン・ファンホールだ」


 全く随一感が無い!

 この人、本当に有名な回復術師なのか不安になってきたんですけど!


 すると、診察室の奥から看護師さんが現れた。

 ナース服をキチンと着た、キツい顔の美女だ。

 彼女は私たちを見る。


「患者をそこのベッドに」


 催促されてオスニエルはイアンをベッドに乗せる。

 看護師さんは手慣れた手付きで包帯を切り、患部を確認する。

 それからしょぼんとしているエルヴィンの背中をバシンと叩く。


「先生、患者さんです。しっかりしてください」

「患者……? 患者がいるのか?」

「はい、それなりに重傷です」


 その瞬間エルヴィンの目がカッと開き、勢いよく立ち上がる。

 立ち上がっているとめちゃくちゃ大きい。

 なにこのサイズ感?


「重傷だと! それは重畳! この俺が完璧に直してやろう!」

「重畳は失礼です」


 エルヴィンは全身に活力を巡らせながらイアンを診察し始める。

 さっきとは別人だ。

 この人何なの?


 私……だけじゃなくて、イヴィーやエベリナも疑問に首を傾げていると看護師さんが説明してくれた。


「昨日からキャンセルが立て続いていて、それを先生は悲しんでいるんです。治療することだけが先生の存在価値なので」


 酷い言い草だな。


「どうしてキャンセルが続いているの?」

「どうやら誰かが無差別に傷や病気を治しているようです。しかも、無償で。ここ数日の話なので恐らく観光客でしょう。商売上がったりです」


 変な人もいるのね。

 癒しを得たいからここに来るはずなのに。


 すると、診断が終わったようでエルヴィンが声をあげる。


「かなりの重傷だが、俺にかかれば問題ない! 跡を残さずに完璧に治してやろう!」


 おお!

 それは朗報だ。


「それにしてもこの処置をしていたのは誰だ?」

「私です」


 私が名乗りを挙げると、エルヴィンは手を思い切り掴んでブンブン振る。

 痛い、痛い、痛い!

 関節が外れる!


「素晴らしい! 完璧な処置だ! 君、私の元で働かないか!?」

「いえ、結構です」


 この短時間で分かったが、エルヴィンは基本的に人の話を聞いていない。

 なのでコミュニケーションは看護師さんが担当しているようだ。


「長時間の治療が予想されますので、入院をお勧めします」

「期間はどれくらいになりそうですか?」

「体力回復もかねて3日ほどですかね」


 というわけで、イアンは3日間の入院。

 エベリナはその場で治療をしてもらい即座に回復。

 やはり、随一の回復術師ということもあり回復魔術の質やキレは凄まじかった。



×××



 治癒宮から後にした私たちは、宿泊の予約をしてから何となく都を歩いていた。

 歩いているだけでも気分が落ち着いてくる。

 3日間の滞在が確定したことだし、この都を存分に楽しもう。


「これからどうする? 温泉、エステ、ビーチ、何でもあるわよ」

「私はシェリルについて行く」


 そう言って、イヴィーは私に密着する。

 お願い。

 離れてください。


「悪いが、僕は宿で休ましてもらうよ」


 そう言って、オスニエルは逃げるように私たちから離れていった。

 ふん、勝手にすればいい。


「それで、どうする? 賢者様」

「うーん、じゃあビーチから行きましょうか」


 私たちはビーチに向かった。

 これから楽しい休暇の始まりだ。


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