第53話 勇者パーティーの崩壊⑮
オスニエルとイヴィーはイアンの部屋にいた。
二人とも深刻な面持ちをしていて、私が入った時には会話一つなかった。
ベッドの上にはうつ伏せに寝かされたイアンがいた。
酷い火傷を負った背中には付け焼き刃程度に軟膏が塗られている。
二人は私、それからエベリナに気付き顔を引きつらせる。
ねぇ、それエベリナに対してよね?
私じゃないよね?
特にオスニエル。
「そんなの連れていて大丈夫なの? なんか、牢とかに入れたほうが……」
「そうしたいのは山々だけど、牢に入れても溶かして逃げられちゃうから。私が彼女の牢代わりよ」
せっかく生け捕りにした四皇将。
誰かのミスで逃げられるなんてことはできれば避けたい。
現状、絶対的な信頼が出来るのは私自身なのだ。
「イアンの容態は?」
「今のところは落ち着いているわ」
「そう」
私は寝ているイアンに近寄り、手を握る。
「イアン、貴方は立派な戦士よ」
彼の行動に敬意を示す。
それから、オスニエルとイヴィーに顔を向ける。
もう、隠す必要もなくなった。
私は二人に全てを話すことにした。
「──という訳。つまり、私は貴方たちのお守りをしていたの」
「あの強さを見たら納得するわ。……そう、そうなのね」
「………………」
オスニエルは顔をしかめるだけで何も言わない。
私は彼に向かって言う。
「エベリナとの戦いで身に染みたでしょう? もう、遊びは終わり」
「だが……」
「次はイヴィーに守ってもらう?」
「────っ」
「貴方の下らない正義感のせいでイアンは傷付いた。実力もないのに正義を振りかざすのは悪より醜い行いよ」
「………………」
少し言いすぎたかもしれない。
でも、これくらい言わないとコイツは分からない。
ここで少しでも甘さを見せたら元の木阿弥だ。
「王国に帰るわよ」
イヴィーは承諾。
オスニエルは肯定も否定もしなかった。
イアンは私の協力者なのでもちろん賛成。
ということで賛成票が多いので王国帰還が決定した。
やったああああああ────っ!!!
よし! よし! よし!
よーーーーーーし!!!
内心で歓喜の舞いをしつつ、私は目の前の問題に意識を向けた。
イアンのことだ。
「私の炎をもろに喰らったから、相当辛いでしょうね」
エベリナは他人事のように呟く。
まぁ、良いでしょう。
今の私は気分最高潮なので大抵のことは許せてしまう。
「シェリルの回復魔術じゃ治せないの?」
「彼女との戦いの後遺症で魔術がちょっと使えないの」
「それ、大丈夫なの?」
「数日、安静にしていれば問題ないわ。そもそも私の回復魔術でも完治させるのはちょっと難しいかも」
私の意見にイヴィーは安堵する。
私のことよりイアンのことを心配してあげなさいよ。
さて、どうしようかと考えていたらエベリナが手を挙げた。
「提案があるんだけどいいかしら?」
「なに?」
「癒しの国に行くのはどうかしら? 王国に帰る途中にあるし、彼の傷を治すならうってつけの場所だと思うけど」
「あー、その手があった」
癒しの国とは名前の通り、ありとあらゆる癒しの方法が集まる国である。
体の傷はもちろんのこと心の傷を癒す方法もある。
特に首都は超高級リゾートクラスらしい。
案外良いかも。
温泉にゆっくり浸かりたいし、ビーチでのんびりしたい。
美味しいものを食べて、最高級のベッドで思う存分寝たい。
今まで勇者パーティーのために精神を削ってきたんだ。
だから、それくらいのご褒美を自分に与えても良いよね。
それにイアンの傷も治せる。
一石二鳥の名案。
エベリナ、最高の案をありがとう。
でも、何か怪しいわね。
「何か企んでる?」
「強いて言えば、貴方との戦いで負った傷を癒したいわ。こうしている今も凄く痛いのよ。きっと骨折しているわ」
「魔王軍に加担していた罰と思って受け入れて」
「あら、冷たい」
とはいえ、良い案を出してくれたし後で鎮痛剤をあげよう。
という訳で、私たちは癒しの国に向かうことになった。




