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第52話 勇者パーティーの崩壊⑭


 四皇将エベリナを倒した後のことは記憶にない。

 魔術の複数、連続行使による脳の負荷が思ったよりも重かったようで意識を失ってしまったのだ。


 私が意識を取り戻したのは翌日の早朝。

 しかし、呆れるほどに状況は変化していなかった。


 唯一変わったと言えば、宿のラウンジに縄でぐるぐる巻きにされているエベリナの存在だ。

 良かった。

 殺さずに生け捕りにできたのは大きい。

 殺してしまったら交渉する余地もなくなるから。


 私は見張りをしていた冒険者に質問する。


「彼女のこと、どこかに報告した?」

「いや、していない」

「じゃあ、ずっとこのまま?」

「まぁ、そうだな」


 大きく溜め息を吐いてしまう。

 全く、あの場にいた冒険者は後処理も満足にできないのか。

 あぁ……頭が痛い。


「見張っていてくれてありがとう。あとは、私に任せて」

「おう」


 冒険者は立ち上がり、私の顔をジッと見つめてから、


「賢者ってもっと老けた奴かと思っていたけど、こんな美人とはな。昨日の戦い凄かったぜ」


 と言って去っていた。


「あら、とても嬉しそうな表情」


 エベリナに指摘されて、少し顔が熱くなった。

 面と向かって美人って言われれば嬉しくもなるでしょ。

 というか、起きていたなら言ってよ。


 恥ずかしい気持ちはとりあえず置いといて、私は本題に入る。


「取引しましょう。求めるのはこの街の解放、貴女の従えている軍の完全撤退」


 エベリナは王国に連行することにした。

 相手は魔王軍四皇将。

 彼女の処罰を私個人が判断することは難しい。

 というか、勝手にしたら私が処罰されかねない。

 それは避けたい。

 

「じゃあ、私は命の保証を要求するわ。処刑なんて絶対に嫌よ」


 うーん、どうだろう。

 あの老人たちは馬鹿だからすぐに処刑しろとか言うからな。

 捕虜にして、交渉の切り札として持っておく方が絶対に良いのに。


 そもそも、私は彼女を殺したくない。

 ここまで魔術を極めた者を殺すなんてあまりにも勿体ない。

 よし、決めた。

 四皇将を生け捕りにした功績を盾にして、彼女に関する裁量権を委託してもらおう。


「分かった。取引成立ね」


 その後、私はエベリナを連れて街のお偉いさんのところへ向かい、街が解放されたことを伝えた。

 お偉いさんは支配されていたとはいえ、魔王軍に加担していたことに罪悪感を感じていたようだった。

 大泣きしながら、罪を償って死ぬと言い出した時には焦った。

 私の説得により何とか思いとどまってくれたが心配だったので、一応カウンセリングを勧めておいた。


 続いて、軍の完全撤退。

 エベリナの一声によって、街付近に潜伏していた魔王軍が撤退していった。

 ちゃんと肉眼で確認したから間違いない。

 引き返してくるという疑念も少しはあったが、エベリナは取引にちゃんと応じる性格だと信じることにした。

 

 それに、念のためルキヤンに伝えておいたから大丈夫だろう。



×××



 一通り終わった帰り道。

 エベリナが私に話しかけてきた。

 縄で縛ってはいないが、魔術の使用を制限する首飾りをつけてもらっている。

 加えて、弱体魔術もかけている。

 この状態で私から逃げるのは控えめにいって無理だ。


「ところで他のお仲間は?」

「宿にいると思うけど」


 正直、イアンのことは気がかりだ。

 早く容態を確認したい。

 出来ることなら回復魔術をかけてあげたい。

 けど、さっき弱体魔術を使った時に襲ってきた凄まじい頭痛。

 これ以上、魔術を使ったら私の脳は完全に焼き切れてしまうかもしれない。

 数日は魔術を控えないと。


「そう。勇者パーティーって、私たちを撹乱させる作戦だったの?」

「いいえ。馬鹿のごっこ遊びよ」

「あら、そうなの。じゃあ、さしずめ私は馬鹿に踊らされた間抜けね」


 自嘲する割にはどこかスッキリした顔をしていた。

 私は少し気になっていたことを質問してみた。


「貴女は何で魔王軍にいたの? 人間なのに」

「単純に人間が嫌いなの。それと魔王様の鮮烈さに惹かれた、ってところかしら」

「ふぅん。貴女ほどの魔術師が惹かれる相手なら見てみたいかも」

「今、見逃してくれたら会わせてあげるわよ。きっと、魔王様は貴女のこと気に入ってくださるわ」

「それはできない相談」

「あら、つれない」


 不思議だった。

 私はエベリナに敵意というものを感じていなかった。

 それどころか一人の魔術師としてもっと話をしてみたいとすら思っている。


 何だろう。

 オスニエルやイヴィーと話している時の100倍楽しい。

 これから王国まで共に行動するという事実に少しだけ気分が弾んでいた。


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